シリーズ
元気です 142

仲間と力を合わせ万葉のふる里PR
吉事(よごと)の会

万葉の歴史薫る大茶会

(あらた)しき (とし)(はじめ)の 初春(はつはる)
今日降(きょうふ)(ゆき)の いや()吉事(よごと)

写真:茶碗
「新しき」の歌が書かれた茶碗

これは、大伴家持が、1250年余り前の正月に、因幡国(いなばのくに)国府で詠んだ歌。万葉集の最後を飾る歌として知られている。

因幡万葉歴史館では、平成6年の開館以降、毎年旧正月の時期に『因幡万葉大茶会』を開いている。これは、家持の歌と、家持がお茶会を開いたことにちなんで行われているものだ。家持の歌が書かれたお茶碗で抹茶を味わい、新年の訪れを祝う。開催回数は19回を数え、多い年では町内外からおよそ150人が訪れる。

茶会の運営は、地元のボランティアグループが行っている。それが『吉事の会』のみなさんだ。現在のメンバーは、国府町に住むお茶をたしなむのが好きな12人。会の設立以前は、公民館活動などでお茶を習っていた人たちが多い。代表の中林国臣(なかばやしくにおみ)さんは、「作法は気にせず、お茶を楽しく飲んでもらうことをモットーにしています」と話す。

吉事の会の設立は、因幡万葉歴史館の建設当時に遡る。「国府町は万葉集発祥の地。また、天皇に仕えた徳足比売とこたりひめ)が眠る地である。万葉歴史館は、その歴史をきちんと伝える施設」と、中林さんは捉えている。歴史館の集客を手伝い、多くの人たちに国府町の歴史に触れてほしい。そんな思いが中林さんを動かした。

写真
子どもからお年寄りまで茶会を楽しむ

「美味しい」が継続の力

中林さんは、歴史館のいいPRになると、旧正月の茶会を企画。仲間集めや集客のためのアイデア出しなど、精力的に活動した。中でも、歌が書かれたお茶碗が一番のこだわり。「日本国中で国府町にしかない茶碗で味わうのが一番」と、中林さんは地元の陶芸グループに特注で制作を依頼した。その数およそ50点。「好評です。お客さんの中には、1000年前の情景に思いを馳せていただいた人もいました」と、中林さんはうれしそうに話す。

井上好子(いのうえよしこ)さんは、結成当時から毎年茶会に携わるメンバーの一人。茶会では、万葉衣装に身を包み、お茶を振る舞っている。「普段はあんなきれいな衣装をきれないでしょう。すごくウキウキして、若返った気持ちになります」と笑顔で話す。

しかし、決して楽しいことばかりではない。年に一度の行事のため、大雪が降ると客足が伸び悩む。また、行事を運営するメンバーが集まりにくい年もあった。それでも、「この歴史館を盛り上げたい」という強い気持ちが井上さんを支えた。

「何事も、続けていくには努力が要ります。みんなでもう少し、もう少しと、これまで続けてこられました」と語る井上さん。「お客さんからの「おいしかった」の一言に、元気をもらっています」と、その表情は晴れやかだ。

「会を通して、特にご婦人の友だちが増えました。若返った気持ちになります」と中林さんは言う。歌への愛情、そして、長年をかけて結んだ仲間とのつながりが、中林さんに力を与える。80歳を超えてもなお、元気は衰えない。

20年の節目に向かって

写真
万葉衣装で抹茶を立てる井上さん

長年続くこの取り組みに、さらに明るいニュースが舞い込んだ。芥川賞作家で『千の風になって』の訳詩・作曲で有名な新井 満(あらいまん)氏が大伴家持の歌に曲をつけたのだ。中林さんは「20回を迎える年にこの曲が流れるのは最高」と、『祝い歌』の完成を喜ぶ。次の大茶会では、みんなで歌を披露しようと、メンバーが集まって練習を始めている。「ゆっくりで歌いやすいです。音程に幅があるので練習しないと」と井上さんも、前向きに取り組む。

「今年も良いことが重なりますようにと、1200年以上も前に詠まれたこの歌の響きが、現在にも伝わっている。非常に感銘を受けています」と、中林さんは歌の魅力を訴える。「この歌を大切にしてほしい。世代が変わっても取り組みを続けてほしい」。それが、中林さんの願いだ。

写真
新井満氏作曲の祝い歌を鑑賞する吉事の会のみなさん

今年の万葉大茶会は、1月26日(日)の午後1時から。万葉衣装をまとった会員たち、歌が書かれた茶碗に懐紙、会場の雰囲気を作り出す琴の演奏など、吉事の会のみなさんは、おもてなしの準備を進めている。万葉の歴史が薫る国府町で、歌人の気持ちに思いを馳せる。そして、新年の吉事を願う。そんなひとときを多くの人に過ごしていただきたい。