●芸術の出前講座 “10周年”記念

鼎談(ていだん)子どもの可能性を広げる体験として

文化・芸術の専門家が学校で授業を行う芸術の出前講座は、子どもたちが本物の芸術を早くから体験できる教育効果の高い事業です。

この事業が10周年を迎えるにあたり、鳥取市の教育、文化、行政を代表するみなさんが鼎談を行い、事業の効果や今後の展望について語り合いました。

問い合わせ本庁舎文化芸術推進課  電話0857-20-3229
対談の様子
(左)竹内功(たけうちいさお) 鳥取市長
(中)柴山抱海(しばやまほうかい) 教育委員長
(右)稲垣晴雲(いながきせいうん) 文化団体協議会副会長

子どもたちに可能性という種を撒く取り組み

竹内
芸術の出前講座は、文化団体協議会から「子どもたちに芸術に関わることを体験させたい。自分たちが積極的に出前講座を担当しよう」という申し出をいただき、平成17年にスタートしました。平成26年度は10周年を迎えますが、これまでを振り返り、これからの取り組みの展望を先生方とお話をさせていただきたいと思います。
まず、稲垣先生から、この事業の概要をお話いただきたいと思います。
稲垣
希望される学校の中から1年に5校程度を対象に行っています。講座の内容は、美術部門で は洋画、書道、写真、シルクスクリーンなど、音楽部門では合唱、ギター、マンドリン、民謡、琴、尺八などがあります。その他、日本舞踊、演劇、朗読、民話、華道、川柳、短歌、作文など、いろいろなものを学校の希望に応じてやっております。講師は文化団体協議会に所属する、各分野で日々研鑚(けんさん)しているみなさんです。講座では、子どもたちが実際に体験してもらうことを大事にしています。
竹内
先生方が学校に出向くことは、子どもたちに新鮮な芸術文化の内容を伝える機会になっています。本市としても大変ありがたい取り組みと考えていますが、これまでの成果や評価についてどのようにお考えでしょうか。
稲垣
学校の先生もよくおっしゃいますが、子どもたちがこれまで見せなかった新しい姿や顔を、出前講座で見せてくれると感じています。この事業はそういう大きな刺激になっているのではないかと思います。
子どものころの私は「絵を描くことならクラスの誰にも負けない」と思っていました。しかし、先生に言われた言葉で、「もう絵は描かまい」と思ってしまったことがあります。中学校で書と出会えましたが、小学校の時にいい経験を持つかそうでないかでは、人生を決めていくと思います。
そういう意味で「今、種をまくことで、将来すごい花が咲くかもしれない」と思いながらやっています。この事業を始めて10年になりますので、最初の子どもたちは社会人になるころです。どんな花が咲くのかがとても楽しみです。
講師のみなさんは、「子どもたちは凄い。私たちが見逃しているものが見えている」などと、口々に言って帰ってこられます。子どもたちは、純粋な目でものを見るので、講師も子どもから教わることが多いのです。
竹内
子どもたちだけではなく、講師のみなさんにとっても大きな効果があるのですね。
写真:稲垣晴雲さん
子どものころの体験が、将来に大きく作用する
稲垣 晴雲 Seiun Inagaki

小中学校教員の書写指導や県内のさまざまな書道展の審査員や講師を務め、鳥取の書道発展および書道人口の底辺拡大と普及に尽力している。

新鮮な体験を通して子どもたちの殻を破る

さて、柴山先生は鳥取市教育委員会の教育委員長として本市の教育行政に関わっておられます。学校教育の中でこの取り組みが行われていることについて、どのように評価されていますか。
柴山
多くのジャンルの講師が携わっており、とても素晴らしい企画だと思います。ある県では、コーディネーターを育てて、授業をコーディネートしていくシステムを作っていますが、鳥取市は独自でシステムを整えています。しかも文化団体協議会がコーディネーターの役割を果たしておられます。本当は、教育委員会も何らかの形で関わって、お互いに協力し合えたらいいのではないかと思います。
竹内
教育委員会としても関わった方がよいという理由には、教育効果が十分に認められるということがあるわけですね。
柴山
そうですね。私も出前講座の講師をしていますが、「いかにして子どもの心を開かせるか」という一点に絞って取り組んでいます。非常に固定化した姿でものを見ているとしたら、それをどうやって崩し、どれだけ広がった心を持たせるか、ということがとても大事なことなのです。特に芸術だけに関わらず、そういう心を持たせたいと思います。
稲垣
やはり、学校教育が進むほどこぢんまりしてしまう部分を体験で破っていくところに、子どもたちのよい表情が生まれるのではないでしょうか。
竹内
教育的な効果も含め、子どもたちに大きな驚きと反応をいただいていることは、本当に意味があることだと思いました。
柴山
また、子どもたちはものすごく真剣です。私が「もうやめにしよう」と言ってしまうくらい何回でも挑戦します。こちらも、子どもたちの思いはちゃんと受け止めてやりたいと思い、自分の道具だけでは間に合わないので、出前授業用の筆を用意したりしています。
稲垣
私も書道をやっているのですが、子どもにとって書道は『書写』のイメージ。良い字、きれいな字を書かないといけないと思っています。しかし、私の授業では自分の思いを含めた書を書くということを狙っています。そのため、会話を通して子どもたちの字に対するイメージを引きだし、それを大事にしています。子どもたちはいろんな観点で話をしてきますので面白いですね。
竹内
通常の授業の枠に捉われないことなので、子どもたちにとっても新鮮だと思います。それが講師のみなさんにも強烈な印象を与えるということですね。
私も、鳥取市の文化について楽しく学ぶ『鳥取楽(とっとりがく)』の講師として参加していますが、賀露小学校に行った時には「市長は賀露町に来たことがありますか」と聞かれました。私は何度も賀露町に行っていますが、子どもたちには遠い存在だったのでしょうか。市長が教室でいろいろと語り、話しかけてくるなど、これまで想像していなかった体験として受け止められています。
写真:柴山抱海さん
如何(いか)にして子どもたちの常識を崩し、心を開くか
柴山 抱海 Houkai Shibayama

手島右卿の思想を継承して鳥取に独立書人団の書を移植。県書道連合会の会長として書の普及に努め、鳥取県文化功労賞知事表彰を受賞した。

芸術ので前講座では、マンドリン・絵画・書道など、あらゆる分野の文化・芸術活動が実施されている

柴山先生による書道の授業。子どもたちは、全身で書に立ち向かう先生の姿をかたずをのんで見守った。

文化の発展のために一層の体験の機会を

竹内
この事業は本市としても発展させていきたいと思っています。先生方は今後の事業展開についてどのようにお考えですか。
稲垣
県内4市の文化団体協議会の集まりがありますが、他の3市にこの事業の話をすると、いつも興味津々で聴いていただけます。他の市も実施したいのですが、なかなかできないというのが現状のようです。
子どもにとっても講師にとっても非常に教育的効果のある事業なので、もっともっと発展させていくことが鳥取市の文化芸術を伸ばしていくことになるのではないでしょうか。また、人間教育という面でも将来的に大きな成果を生むものだということを信じています。
具体的にどのようにやっていくかは、我々もコーディネートするのに難しく感じるところもありますので、我々だけではできないことも出てくるのではないかと思います。行政にもご協力いただければと思います。
柴山
鳥取市教育委員会でも、スポーツ関係の教室は行っています。しかし、文化・芸術のこのような活動は本当に少ないため、出前講座はとても大事な活動だと思います。情報量もスポーツはいくらでも出てくるのですが、文化の関係は少ししか取り扱ってもらえません。やはり文化的な芸術に関する取り組みがもっと前面に出てきていいのではないでしょうか。スポーツも文化も、両輪のごとくお互いがうまくいく形が必要だと思っていますので、ぜひ頑張ってほしいと思います。
竹内
やはり、地元のみなさんが教壇に立ち、授業をしていただくことは、いわば文化の地産地消ということで、効果も大きいと思いますし、子どもたちも芸術・文化に一層親しみが持てると思います。また、教育効果が認められるということですから、学校にこの制度をよく知ってもらって積極的に活用していただけるよう、教育長にも私からお話をして、お願いしたいと思います。
平成26年度は、障がいをお持ちの方の全国芸術文化祭や唱歌ふるさと誕生100周年記念事業、尾崎放哉の生誕130周年記念事業など、文化・芸術に光が当たる年になります。
本市の特色ある文化・芸術に携るみなさんが、学校で子どもたちとふれあい、体験するこの取り組みの新たなスタートの年にしていきたいと思います。
写真:竹内功市長
竹内 功 Isao Takeuchi
子どもたちが文化・芸術にふれる機会を増やしたい

竹内市長も講師として参加。市役所の仕事を説明したり、子どもたちと名刺交換を行ったりした。

※対談内容は要約して掲載しています。