天文セミナー 第195回

『星の歳時記』



27.白鳥座

 1975年8月の末の事です。夕涼み旁々、夕空を見上げていた私は本田さんから電話を頂いたのです。白鳥座に、見たこともない明るい星が現れているという内容です。ビックリしました。早速、岡山の観測所と堂平の観測所に連絡したのは言うまでもありません。その後、長田健太郎さんや大学の天文同好会、さらに福島県安達太良連峰の浄土平で実施されていた星見の会からも続々と連絡が入りました。白鳥座新星1975の発見です。
 この星は、極大光度が3.0等まで上昇し一時は超新星ではないかとまで言われました。
 国際天文学連合の中央局へ直ちに通知し、その通知が世界を巡ります。世界各地で追跡観測が実施されたり、母天体の探索が行われたのでした。観測が継続されると、超新星の可能性は否定されましたが、それまでには見たこともないような明るさで、白鳥座の主星・デネブと明るさを競いどちらが主星か、デネブが2個になったようだとか、色々と話題を提供してくれました。本田さんのこれまでの新星発見の業績と、この新星の出現を契機に日本での新星探索の機運が上昇してきたのでした。大分県日田市の桑野善之さん、静岡県の和久田実さんなどが精力的に新星の探査に参加して来ました。この当時、日本人の新天体発見の多い事が世界的に有名になり、新天体発見王国とまで言われる様になりました。

 新天体の発見は、容易なことではありません。本田さんは口癖のように「新天体を発見したいのなら掃索をお止めなさい、発見できなくても良いのなら掃索を続けなさい」と言っておられました。しかし、中には新天体を発見して「名前を世界に轟かせたい」と思う人もあって、地平線下にある彗星を発見したと私に連絡して来た人もあります。懲らしめたのは当然ですが。

  見えぬ星  見えた心地や 夢の中。   香西蒼天

  名を残す  発見の栄誉  新天体。 香西蒼

 1980年代のことです。台湾の天文仲間を訪ねたことがありました。各地を巡り、台湾の首都・台北でのことです。天文仲間が集まってくれて話に花が咲きました。その翌日、台湾の大学に立ち寄り、教師や学生とあれこれ話し合っているとき、一人の学生が「日本ではどうして新天体の発見などに多くのアマチュアが活躍しているのですか。」と聞いてきました。台湾では、20歳に達すると、男子は必ず兵役に就かなくてはならない決まりがある事を知っていましたので、学生に兵役の事を聞き返しました。すると、学生は「兵役逃れのため優秀な人は海外に逃避してしまいます。言ってみれば頭脳の海外流出です」と、答えてくれました。そこで私は、「日本には憲法がありその第9条に戦争放棄の項目があってしっかりと守られているため、若い人の興味が中断される事がなく、天文の分野でも若年から中年、そして壮年まで趣味としての天文に係わって行く事ができます」、と応えたのです。憲法が、意外なところで思わぬ威力を発揮してくれていることに気づいたのでした。新天体発見王国と呼ばれる背景に、憲法が潜んでいたのです。

 意外にも  戦争放棄が  星を呼び。     香西蒼天

 この兵役の義務は韓国でも同じような影響が現れているとか。青春時代の感激を中断させることなく継続できる喜びを大切にしたいものですね。


2013年9月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2013年9月の星空です

夕方、宵の明星・金星が一番星として輝きます。
天気のいい日は要チェックです。
夏の大三角が、頭の真上から西寄りに見え、
東の空には、秋の四辺形やカシオペアなどの
秋の星たちが昇っています。秋の星空には
明るい星が少ないので、夏の大三角の明るい星を
目印にすると、見つけやすいかもしれません。
夏の大三角からカシオペアにかけて、天の川も見られます。


次 回も、お楽しみに

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