天文セミナー 第194回

『星の歳時記』



26.夏休み子供電話科学相談

 1980年代の初め。私はNHKの131スタジオにいました。NHKが始めた夏休み子供電話科学相談の回答者として参加していたのです。この年の6月頃、NHKの担当者から、ラジオによる子供向けの科学相談の番組を始めたいと相談を受け、両手を挙げてこのプログラムに賛成していたのです。科学全般にわたる質問に答えなくてはなりません。回答は動植物、物理、化学、天文地学、その他に通暁した専門家が担当します。それでも、何しろラジオです。質問者の顔は見えません。さらに、電話での質問なので即答が求められます。専門家といえども相手は小学生やそれ以下の年齢の子供です。身振り、手振りで説明してもラジオの電波では通じません。四苦八苦の連続です。動物や植物の質問では実物や辞典で見たこともあり、質問者は自分でイメージを作ることができます。ところが、天文は、手に取ることも、実際に見ることもできない疑問が集中します。回答者は、互いに横合いから助け船を出しながらの回答です。天文の分野では、宇宙には果てがあるのですか?星は幾つあるのですか?何故星は丸いのですか?。等々で、回答は苦労の連続です。

 ある時など、小学生とは思えないような質問に出会いました。聞き返してみると、質問する子供の後ろには母親。「お母さんがいますね!」と言うと、すかさず「ハイハイ」と登場。「お母さん小学生ですね」、と。この番組はとても好評で、現在まで続く長寿番組になっています。この番組に、東京在住中のほぼ10年参加し、住まいを岡山に変えても何度か参加したのです。ある時、友人から「車で出勤中、カーラジオを付けると決まって君の声が聞こえてくるよ」と言われたことがありました。電波って怖いものですね、何しろ国境がありませんから。

  想定を 遙かに超える 子の疑問。       香西蒼天

  果てしなき 子らの思いや 夜の空。      香西蒼天

 この子供電話相談の番組が進行中のことです。私の「香西さんの星の話し」が同じNHKのラジオ番組で並行して進んでいました。放送は、ほぼ毎週のこと。その時その時の天文に係わる話題を取り上げての解説です。この放送も131スタジオが使われ、スタジオではアナウンサーと2人だけ。アナウンサーの軽妙な語り口が番組を進めます。何しろ、天文と言えば、多くの人が関心を持ってはいても手に取ることも触ることもできず、さらに夜の世界のこと。多くの人は関心事ではあっても、遠い世界のことと思っているようです。そこで、カレンダーや時刻、果ては自分自身のこと等々を話題にします。「貴方は良い星の下に生まれましたね」とか、「相撲の星取り表」、さらに「自分たちの干支」等々です。ところが、このお話は電波で人々に届きますが、受信器のスイッチをオンにしていないと聞けません。意外な事に、農作業中の人達の多くが携帯ラジオの聴取者だったのです。ある時、金星が白昼に見える事があり、見え方や時刻と方向、さらに高さをアナウンサー相手に説明しました。すると、幾ばくもなく担当のディレクターから1枚の紙切れが届きました。そこには、農作業中の人から「放送を聞いて実際に見たところ金星が見えた。話しには聞いていたが、実際に見えてとても感激した」とメッセージが届いたと書いてありました。

 あの星と  ラジオが教え 初見かな。      香西蒼天

 野良仕事  ラジオが共の 星見かな。      香西蒼天

 ラジオの魅力と威力を実感した一コマでした。


2013年8月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2013年8月の星空です

夕方西の空の「宵の明星」金星が少しずつ見えやすくなってきました。
夏の大三角は、ほぼ頭の真上に見えます。3つの一等星「ベガ」
「アルタイル」「デネブ」を見つけましょう。夏の大三角を北から
南に天の川が通っていますが、街明かりや月明かりが多いと、
残念ながら見ることは難しいでしょう。南の空にはさそり座も見えて
います。一等星アンタレスが目印です。


次 回も、お楽しみに

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