またまた、引かれた幕を引き上げての登場です。しつこいと言わないでください。
日本海の冬の味覚の中で最も有名なものは「ヅアイガニ」でしょう。このヅアイガニは地域によって呼び名が違い、鳥取県では「マツバガニ」、福井県では「エチゼンガニ」と呼ばれるそうです。世界各地に広く分布するカニですが、オーストラリアの南極海に面した小さな港町で見た「ブルークラブ」と呼ばれていた青色のカニ。色も美しかったのですがその味も。舌鼓を打って食しました。
これらのカニではありませんが「かに」が4月の夜空に懸かります。よく目立つ「しし座」の鎌首の西で、ほとんど目立たないにも係わらずすでにバビロニア時代から星座に描き残されています。この「かに座」は、黄道(太陽の通り道)にあり、今から3000年ほど昔にはちょうど夏至の太陽がこの星座にありました。夏至、冬至、春分、秋分は二至二分と言って暦ではとても重要な節目です。この節目の夏至に太陽がこの星座で輝くのですから、とても重要な星座として知られていたのでしょう。また、この星座の中心にある小さな井桁を作る星の並びを昔の中国では鬼宿(きしゅく)と呼んで人の霊魂の天国への入り口とも考えていたようです。日本の古典「古事記」に見られる黄泉の国への入り口、黄泉比良坂(よもつひらさか)に、何か似ている気がしますが。
夜空での カニの味わい 春4月。 香西蒼天
「しし座」の鎌首のすぐ近く、口の直前にあるのが「かに座」。獅子はかにに飛びかかろうとし、かには大きなハサミでししの攻撃を防ごうとしているようにも見えます。日本の昔話の「さるかに合戦」ならぬ「ししかに合戦」を思わせのも面白い取り合わせです。ところで、この「かに座」の学名は「Cancer」、そして現代の病で最も気がかりなのは癌で、これも「Cancer」。全く同じ綴りです。何故でしょう。実は、女性の難病「乳がん」。この乳がんが「かに」の姿に似ていることから付けられた名称で、いずれにしてもあまり名誉なこととは思われません。実際、昔の星座絵を見ると、今では想像もできないような「かに」の姿が描かれています。この「かに座」を有名にした星の集まりがあり、その名は「プレセペ」、蜂の巣星団の愛称で呼ばれる星団。双眼鏡の好対照で、蜂たちが巣に群がっているような星の群れです。肉眼では、一寸見づらい対象ですが良く晴れた夜なら意外に簡単に見つかります。
羽音さえ 聞こえ来そうな 星団プレセペ。 香西蒼天
私は、春の星座を「春の夜空の動物園」と、親愛の思いを込めて呼んでいます。先ず、北斗七星を含む「大熊座」、北極星のあるのが「こぐま座」、大熊座のお尻にかみつく「猟犬座」、大熊座に踏みつぶされた「こじし座」。こじし座を背中に背負った「しし座」、ししに噛みつかれようとするのが「かに座」。さらに南から「かに座」狙うのが「からす座」を背に乗せた「うみへび座」。春の夜空の動物園の開園です。
大熊座 こぐま座しし座 うみへび座 からすに小じし カニと猟犬。
香西蒼天
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