天文セミナー 第189回

『星の歳時記』



21.ぎょしゃ座

 冬から春にかけて、日本などではほぼ天頂に近いところで輝く1等星があります。カペラと言ってぎょしゃ座の主星ですね。北天では、おおいぬ座の主星・シリウスに次ぐ明るさなので、誰でも容易に見つけることができ、さらに全天で最も北にある1等星で、ほぼ九ヶ月にわたって輝きます。太陽に近い色の星で、およそ四十光年のところにある連星。0.6等と1.1等の星が0.285年の周期でお互いに回り合っていることが知られています。

 ぎょしゃ座は、いびつな五角形が目印で、見つけるのは意外に容易で天の川の中に身を埋めています。双眼鏡か小口径の望遠鏡で見ると、この五角形の中には、多くの星団やガス状の物質が五角形の中に見え、とても楽しい見物です。ところで、このぎょしゃ座にはγ(がんま)星が見当たりません。それは、五角形の内の一つの星が、お隣の牡牛座に所属する星だからです。1603年のことです。ドイツのバイエルが各星座ごとに原則として明るい順に(時には明るい順でないこともある)ギリシャ文字の小文字のアルファベットを当てて整理しました。これが、バイエル記号と呼ばれる星の名前の一つで、肉眼で見える目ぼしい星のほとんどに付けられていて、そのまま最も一般的に使われている呼び名です。この記号(バイエル記号)は星座ごとに付けられているので、各星座には同じ記号の星があって紛らわしいので、記号に星座の名前を付けて呼ぶことになっています。つまり、ぎょしゃ座の主星・カペラはぎょしゃ座のα星等のように呼びます。

 ぎょしゃ座のγ星は、昔は牡牛座のβ(べーた)星と同じだったのですが、1930年に国際的に星座の整理が行われ、その際牡牛座のβ星として残り、ぎょしゃ座にはγ星は無くなったのです。同じようなことが他の星座、例えばペガサス座とアンドロメダ座にも見られますが、星座の歴史を物語るエピソードとして語り継がれています。

  五つ星  一つ減らした  天の馭者     香西蒼天

  最北の  カペラ輝き  冬の夜       香西蒼天

 鎌倉時代の歌人・藤原定家によって書き残された日記「明月記」に1230年に出現した新星と同じような現象が過去にもあったとして、1054年に「客星天関に孛(はい)す、大さ歳星の如し」と記載されていました。これは見慣れない星が天関星(ぎょしゃ座と牡牛座の境界に近い牡牛座のζ星)の近くに現れ、明るさは歳星(木星)ほどであったと言うことです。この星こそ、「かに星雲=M1」の名前でで知られ、天体物理の発展に大きく寄与した超新星でした。この超新星の研究から恒星物理学が大きく発展し、さらに1987年に大マゼラン星雲に出現した1987Aと名付けられた超新星の研究から星の一生の過程が解き明かされて来たのでした。

  かに星雲  輪廻の世界を   見せてくれ 香西蒼天

  筆者の駄作の五七五。

  長いお付き合い有り難く、感謝申しあげます。

  いつか、またの日がありますことを念じつつ、最終章の幕引きと致しましょう。
         香西洋樹


2013年3月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2013年3月の星空です

3月のなると、春の陽気が待ちきれないように
春の星たちが昇ってきます。賑やかな冬の星たちも
西の空に追いやられて、心なしか元気がないようにも
感じられます。夕方や明け方の低空に、パンスターズ彗星が
見られるかもしれません。


次 回も、お楽しみに

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