天文セミナー 第173回

『星の歳時記』



5.天の水瓶  水瓶座

 前回の山羊座の東にあるのが水瓶座。黄道12宮の一つとして星座占いなどでは2月の星座として親しまれていますね。都会ではなかなか認められないような微かな光の多くの星が三本の矢車で表されている水瓶からこぼれ落ちています。この水瓶を肩に担ぐのは、それこそ水もしたたる美少年ガニメデスの姿だと言います。本人は、大変な恥ずかしがり屋で、なかなかその姿を見せようとしないとも言われ、特にこの頃のように夜が明るいと見つけるのも容易ではありません。水瓶座の天文学での名前はアクアリウス。アクエリアスというペットボトル入りのスポーツドリンクや、有名な装飾品のメーカーの名前にも使われていますのでお馴染みですね。このガニメデスが持つ水瓶から溢れだした水を南の低いところで口を開けて飲んでいるのが南の魚。このあたりの星座を見回すと水に関わりのある名前に出会います。これらの星座の発祥の地と言われるメソポタミア地方では、雨期になると太陽がこの星座を通過することから付けられた名前だと言われています。メソポタミアは現在の中近東地域。乾燥地帯の人々の生活にとって水はとても貴重な物でした。きっと大きな期待をもって太陽がこの水瓶座にやって来て雨期が始まり、水が手に入ること、農産物が成長することを待っていたことでしょう。もっとも、現在では水がオイルに変わってしまったようにも思えますが。

 この水瓶座の重要な目印は、4個の同じくらいの明るさの星が形作る矢車。ところで、1986年に回帰したハレー彗星のことをどれだけの人が記憶されているでしょうか。1910年の回帰の時のハレー彗星の姿が大きく、雄大だったことから1986年の回帰に際しては世間の関心が増幅され、ハレーフィーバーとも言えるような状況でした。国際的な観測網が作られ、ジオットと名付けられた観測機をヨーロッパ科学機構が打ち上げてハレー彗星の本質に迫る観測を成功させ、日本でも当時の東京大学宇宙航空研究所が2機の探査衛星を打ち上げて大きな成果を挙げました。この時の、ハレー彗星の天球でのコースの中にこの水瓶座がありました。この時のハレー彗星は1910年の時と打って変わって、地球や太陽との位置関係が余りよくなく、大きく雄大な姿を見ることは期待できませんでしたが、それでも多くの人達が夜空を見上げたのでした。そして、見上げる場所の目印が4個の星が作る矢車だったのです。それは、1985年末から1986年初にかけてのこと。

  今宵また ハレーも飲むか 水瓶の水     香西蒼天

 最近の天体物理学の教えるところによると、宇宙開闢のとき最初にできた元素は水素、そして僅かなヘリューム。これらが集まり星になり、核反応を繰り返して重い元素が生まれたと教えます。さらに、彗星は太陽系の生成と同時に太陽系の外縁部に吹き飛ばされた多くの微少物質の集まり。そして、地球は水の惑星。

  水瓶の 溢れる水の 地に満ちて    香西蒼天 

 地球の水が危機に瀕しています。地下水の枯渇、降雨の片寄り、人口増加、水の汚染。  真水を大切にしたいものです。


2011年11月の星空

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2011年11月の星空です
頭の真上に秋の四辺形が見えます。西を見ると夏の大三角、
東を見ると早くも冬の星たちが昇ってきています。
木星の輝きがひときわ目立ちますが、
夕方南西の空低くには、金星も見えてきてます。


次 回も、お楽しみに

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