夏の夜空に懸かる大きなS字の星の並び。言うまでもなく「さそり座」ですね。9月になると西に傾き、早々に地平線下に逃げてしまいます。東から、オリオンが登ってくるのも間近です。このさそりの心臓に当たる赤い星が火星と見間違うように見えることから名付けられたのがアンタレス、火星に対抗する星と言う意味ですね。そして、このアンタレスのことを「大火」とも呼び、やはり火星=?惑に対抗する星とされていました。さて、この?惑(けいこく)とは字の意味からは惑わす星とも言われるのです。火星の軌道は、地球に比べやや楕円率=離心率が大きく、地球から見るとき明るさが大きく変化し、最も明るいときにはそれこそビックリするほどの明るさになります。まさしく天上の「大火」です。そして、天球での運動も行ったり返ったりで人々を惑わせます。
天文学を一般に普及された人として知られる故神田茂氏が亡くなられたとき、丁度火星が接近中で赤く大きく輝いていました。そして、私の天文の友人で短歌に造詣の深い人が故人を偲んで「大火・・・」と詠んだことがありました。そこで私も一句、
夜(よ)を焦がす 大火傾き エコの夏 香西蒼天
話変わって、1960年代のこと。初めて国産のX線観測衛星が打ち上げられ、全天のX線による捜索を行ったところ、さそり座の一角から強いX線が放射されていることが分かりました。まだX線天文学が始まって間もなくの頃のことです。Xとは、不明なもの、または不明な物を指す言葉ですね。人工衛星に搭載されていたX線望遠鏡は、具体的にはスダレを2枚直交させたような器具です。何しろX線は普通の望遠鏡では捕らえられないのですから特別の工夫が凝らされたのです。こうして、X線の源をある範囲で決めることに成功しました。そこで、この不明なX線の源を探そうと世界の光学天文学者が捜索を始めたのでした。先ず、X線を放射しているのですから短波長の青い星に違いないと考えたのです。ここで登場したのが岡山に新設されたばかりの東京天文台岡山天体物理観測所です。この候補の範囲、星域を当時世界有数の口径を誇った188cm望遠鏡で、赤と青の光に特に感じる乾板とフイルターの組み合わせで撮影したのでした。結果は、特徴ある候補天体が発見され、それが青色の光で強く輝いていることを突き止めたのでした。私も、この天体の変光の様子を写真で捕らえようと観測に加わりました。こうして発見されたX線源はその後「さそり座X−1」と名付けられ、X線星の第一号に登録されました。
さそり座の 青き光よ Xスター 香西蒼天
懐かしい思い出の一コマ。真夏の夜の夢ならぬ事実でした。
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