天文セミナー 第170回

『星の歳時記』



2.救急車 蛇遣い座

 このタイトルは何だ!と思われる人も多いでしょうね。救急車とは!。巷をサイレンを鳴らしながら命を救うために走り回 る救急車。遙か彼方から聞こえてくるサイレンの音は、救急車が近づくときには高い音に変わり、自分の傍を通過すると急激に低い音に変わっていきますね。い わゆるドップラー効果と呼ばれる変化で、この現象は音だけに限らず、光などにも現れる現象で、天文学ではお馴染みですね。遠方の天体が、近づいてくるのか 遠ざかっているのかを知る手立てで、波長の変位の量から速度が求められます。そして、その変位の量からその天体の速度が推定されるのです。天体までの距離 を測る幾つかの方法の一つで、速度から距離を求める梯子の中で最も遠くまで測ることが可能な方法です。

 ここで、救急車を取り出したのには別な意味があります。私は、時々病院へ通います。救急の入り口にサイレンを鳴らして救急車が到着すると、救急隊員と病 院の救急メンバーが患者さんをストレッチャーに乗せて診察室へと急ぎます。残った救急車のボディーの側面をよく見てください。何かの図が描かれています。 何でしょう。

 夏の天の川が、さそり座に注ぐあたりの星座は「蛇遣い座」ですね。この蛇遣い座の謂われとなったのがギリシャ神話の医師「アスクレピオス」。死者を蘇ら せて神のお叱りを受けたと言われる方ですね。そして、蛇は脱皮することから蘇り、復活を意味するとも言われます。ギリシャ神話を読み、国連の世界保健機関 のマークにも注意してください。よく見ると、杖の様な物に何かが巻き付いているように見えませんか?そうです、これはアスクレピオスが持っていた杖に蛇が 巻き付いた姿が描かれているのです。このマークは国連の世界保健機関だけではなく先ほどから書いている救急車の側面にも描かれているのです。そこで、一 句。

 人類の 健康保つ 蛇遣い(座)  香西蒼天

  蛇遣い座は、大きな五角形の姿で、半身を夏の天の川に浸し、蛇に跨がっているように描かれています。

 1960年代のこと。彗星の発見者として名高い故本田実氏が写真による新星の捜索を始められました。そして、その結果最初の新星発見がこの蛇遣い座の新 星でした。そのときまでの新星の発見者は故五味一明氏のトカゲ座の新星などで、日本人の新星捜索は未開拓の時代でした。最初に連絡を受けた私は、堂平観測 所に急行しこの情報の確認に当たりました。50cmシュミット望遠鏡で直接写真を撮影し、引き続き対物プリズムを筒先に付けてスペクトルの撮影。何しろ、 それまでには全く経験がない新星の確認です。知らせによると6等級とか。直接撮影の乾板で像を確認しスペクトルのHα線を認めて、初めて新星と確認したの でした。

  新星の 光を蘇生 蛇遣い(座)  香西蒼天

   当時の思い出の拙い一句でした。


2011年8月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2011年8月の星空です
星空は、夏の星たちでいっぱいになりました。
頭の真上近くを見上げて、夏の大三角を結びましょう。
南の空にはさそり座も見えています。
さそり座の上には、へびつかい座が見えています。


次 回も、お楽しみに

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