天文セミナー 第168回

『佐治の夜空を見てみよう!』



12.佐治の夜空を見てみよう

 私の独断のこだわり天文学、天文セミナー「佐治の夜空を見てみよう!」シリーズも最終回。これまでは如何でしたか。
 さて、最終回ともなると何とか決着を着けなくてはなりません。そこで、改めて佐治天文台の夜空を見てみることにしましょう。佐治天文台の建設当時、丁度環境省(当時は環境庁)が主導する「全国星空継続観察・スターウオッチング・ネットワーク」の試行が始められていました。この試みは、いまから50年も前のことになりますが東京天文台が観測機器の充実を図り、岡山県の南西部・当時の鴨方町と矢掛町の境界近くに岡山天体物理観測所を開設し口径188cmの当時としては世界屈指の大望遠鏡と国産の91cm反射望遠鏡を設置し、さらに東京に近い場所として埼玉県の西部の都幾川村、東秩父村などが境界を接する場所に国産の口径91cm反射望遠鏡を設置し、天体物理観測を強化したのでした。これらの施設は、その後日本の天体物理観測に大きな活躍をし、日本の天体物理学の飛躍的向上に大きく貢献したのです。1963年のこと、東京三鷹にあった東京天文台の本部構内に設置されていた日本最初の本格的な天体写真儀の老朽化に伴って新しく口径50cmの特殊光学系、具体的にはシュミット形式の望遠鏡が製作され、三鷹での試験観測の後、埼玉県に開設されていた東京天文台堂平観測所に移設されたのでした。この望遠鏡は、いわゆるF2、口径と焦点距離の比が小さく明るい光学系でした。当時の夜空は、春先と秋には東西の黄道光がしっかりと見えるほどの素晴らしい環境でした。私は毎晴夜、このような星空を仰ぎながらこの新しいシュミット望遠鏡で観測を続けていましたが、ある日観測を終えても手元に1枚の未露出の写真乾板が残りました。何を写そうかと思案の末に東京の夜景を写すことにしてシャッターを切りました。関東平野の夜景が美しく(?)写っていましたが、それはその後の光の海を告げる予告だったのかもしれません。1972年には、ジャコビニ彗星に起源をもつ流星群が現れることが計算で求まると、多くの人にこの現象を見てもらいたいと、暗い夜空を念願しまし、このとき堂平観測所で撮影した「東京の夜景」の写真を手元に当時の環境庁(現・環境省)に出かけました。この時の1枚の写真が、言葉による説明以上を語ってくれたのでした。その結果、さしもの環境庁も重い腰を上げてくれて、夜間の灯火が少なくなるようにと行政指導を発動してくれたのです。この時期、経済活動と夜空の明るさの関係が云々されたのでしたが1枚の写真が果たした効果は覿面でした。時は流れて、環境問題が大きくクローズアップされると環境庁も星の見える環境こそ大切だ!との認識で先述の「全国星空継続観察・スターウオッチング・ネットワーク」の試行を始めたのでした。この事業に率先して参加したのが、当時の佐治村。観察場所は現在の天文台用地の近くでした。観測の結果は、世界の暗い場所にも劣らぬ暗さでした。そして、村民挙げての「星空を守ろう」という意識から発足したのが現在の佐治アストロパークでした。このときの「星空を守ろう」、という運動の源には「星空は世界共通の文化遺産だ」という認識がありました。気の遠くなるような時間を経過し、いまなお輝き続ける星、またはその星の群。星座として多くの物語を残し、人間の生活に時の重要さを教え、そして人との長い付き合いの中で多くの学問の源として現在にまで続くのが星だ、と気付いて実感したのです。こうして、現在も「ソラクライ プロジェクト」で星空と地球環境を考えようキャンペーンを繰り広げているのです。
 そして、このときの意識と認識そのままの星空環境が、今なお佐治天文台の夜空には見えているのです。暗さに慣れると夜道も明るいもので、瞳を凝らすと星たちの語りかけて来るのが聞こえそうです。子ども達の歓声が夜空にこだまし、大人達は過ぎ去った時を思い出すでしょう。そして、その夜空で繰り広げられる、それこそ巨大な宇宙の広がりと地球の大切さを知るでしょう。その背景には、近代の科学や観測技術の進歩に支えられた人類共通の新しい知識。これらが、やがて人類共通の認識に繋がります。宗教は、「人間の死」を考えることから始まったといわれ、星も生と死、輪廻転生を繰り返して進化しています。そして天文学は世界最初の学問と言われる所以は、太陽系発生の時から共に存在したのが星だという認識があるからでしょう。そこに、学問の源があるといわれる所以なのです。
 まだまだ、人類や生物の「親探し」は終わりません。佐治天文台の研究員もご一緒に、この「親探し」に参加いたしましょう。


2011年6月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2011年6月の星空です
6月になると、春の星一色から夏の星たちの気配
が感じられるようになります。夏至の頃で夜の時間が短く
さらには梅雨で星空を楽しむ機会が少なくなります。
少しの晴れ間を大切にしましょう。


次 回も、お楽しみに

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