天文セミナー 第164回

『佐治の夜空を見てみよう!』



8.星恋も楽しい。

 天文文学者として知られる野尻抱影氏には文学者として知られる山口誓子氏との共著に「星恋」という一冊があります(昭和21年:鎌倉書房刊)。この「星恋」に山口誓子自身が書いた序文に「夜を帰る 枯野や 北斗鉾立ちに」「露更けし 星座ぎっしり 死すべからず」などを見ることができるのです。
 野尻抱影は明治18年生まれ(本名:正英まさふさ)で作家大仏次郎の実兄、山口誓子は明治34年生まれ(本名:新比古ちかひこ)で、初めて出会ったのは昭和30年だったようで、この「星恋」が発行されていたときには文通によっていたのでしょう。この二人が星をキーワードに親交を深めたのも何かの縁だったのでしょう。
 その後野尻抱影の著作「星三百六十五夜」(昭和31年)も大きな反響を呼び、愛蔵版として昭和47年9月に発行されたものの「あとがき」に、この天文随筆集は、海外にも余り見かけないし、専門の圏外にある私の一代、これ一冊であることを認めていると書いています。
 「星恋」。ロマンチックなタイトルで多くの読者を魅了し、天文エッセイの随一とも称されていますが、このように文学作品の中にも多くの「星」が登場し、そして本のタイトル、歌の題名に星の一字があると売上が上昇する、とさえ言われているそうです。何故、このようなことが起きるのでしょう。日本人の間でよく囁かれる言葉に「良い星の下に生まれた」とか、「星回りが良い」などがあります。これなど、日常的に使われる言葉でその背景には日ごろ気に掛けずにいてもDNAの中にインプットされた星との繋がりがあることを思い出させます。さらに、「星占い」、「生まれた星座」、枚挙に暇がありません。
 これまでにも書きましたが、天文学は「親探し」。自分自身を含めた人間のルーツ探しなのではないでしょうか。有名な画家、ポール・ゴーガン(ゴーギャン)がゴッホと別れて南太平洋のタヒチで描いた「われわれはどこから来たのか?われわれはなに者か?われわれはどこへ行くのか(英語の題名:Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going? )」と題された1枚の絵に象徴されるように、永久に続くのがこの「親探し」ではないでしょうか。
 宇宙は、ビッグバンによって始まった、といわれます。これは、天文学が進歩し、遠くの天体までの距離や運動速度が観測から知られるようになって来たことに由来します。天体の中には、よく知られているように点像で光る「星」以外にも、ガス状で広がった天体があることが知られています。このガス状の天体の中にまだ見えないような星の卵とも言える物質があることが知られ、誕生間近の星の姿であることが知られました。さらに、無数の星が集まった集団「銀河」までの距離と移動速度が測られ、およそ137億年前に遡ると宇宙のある一点に収斂することが判りました。こうして宇宙の年齢が判明すると、宇宙誕生の時の大爆発ビッグバンの時に作られた元素が問題になり、結局水素が主成分であったことが知られたのです。今の宇宙が生まれたのは、今からおよそ137億年前で、ビッグバンという大規模な爆発によったということになったのです。こうして、現在の宇宙に対する理解が進み、さらに生物の発生はいつ、どこで、どのようにして起きたのかが問題になって来たのです。 地球上の生物は太陽を親とし、太陽は一代前の星を親星とし、その親星は・・・・・、と限りなく「親探し」の旅は続くことになるのです。
 何しろ星空には国境がありません。二十四時間で世界一周を果たすのですから、世界の人々皆が見て考えるチャンスがあるのです。
 私は、イタリアの児童文学者デ・アミーチスが1886年に発表した「クオレ」の中に収められている、少年・マルコが母・アンナ・ロッシを尋ねてイタリアのジェノヴァからアルゼンチンのブエノス・アイレスまでの旅物語「母をたずねて三千里」を、同じアルゼンチンのブエノス・アイレス港の波止場を訪ねた時に思い出したのです。
 文学書、文芸書にも、また詩歌にも多く登場する「星」。結局は親探しの心の現われなのではないでしょうか。




2011年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2011年2月の星空です
空一面、冬の星でいっぱいです。
オリオン座を中心に星空をたどってみましょう。
オリオン座のすぐ下には、うさぎ座があります。
明るい星はありませんが、うさぎ座の今年
オリオン座を目印に探してみましょう。


次 回も、お楽しみに

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