天文セミナー 第163回

『佐治の夜空を見てみよう!』



7.あの星、この星、星探し。

 新聞の紙面で、新しい星や新星と呼ばれる星の発見が報じられることがありますね。これらは、決して新しく誕生した星ではありません。いままで、気付かなかった星や遠くにあって見えなかった星、さらに近くでも急激に明るさを増して見えるようになって来た星もあるのです。ここでの発見は、新しく誕生した星を見つけたのではなく、見え始めた星を発見したのです。
 あの星、この星、星探しは、このように見え始めた星を見つけることなのです。世間で大きな話題になるような発見も、結局は新しい事実に初めて気付いたことなのでしょう。発見をこのように定義すると、誰でも、何時でも発見のチャンスはあることになりますね。
 彗星という、天界の放浪者と呼ばれていた天体があります。肉眼で最も多くの彗星を発見したのは、鳥取県八東町出身で岡山県倉敷天文台で長く活躍された故・本田 実氏でした。本田氏は、発見が無ければ情報は得られない!という信念の下に、長年にわたって彗星の捜索に情熱を注がれました。そして、晩年には新星の捜索にも。この本田氏の業績に感動し、志を引き継いだのが高知の関氏、静岡の池谷氏、そして最近大活躍しているオーストラリアのマックノート氏などです。新しく見え始めた星を見つけることは、例えようの無いほど感動的です。何しろ、世界ではじめて見ることになったのですから。
 新しく発見される星も決して新しく誕生した星とは限りません。観測の手段、観測機器が新しい技術で開発されると発見の機会は増します。技術開発は、科学に支えられて進化し、その技術に支えられて科学は進歩します。世間では、よく科学技術と一つの熟語で表わされますが、決して一つの熟語ではなくて、科学と技術と言われるべきではないでしょうか。何しろ、車の両輪にも例えられるような相補的な関係にあるのですから。
 例えば、日本が世界に誇る大望遠鏡「すばる」の建設に際して、世界の天文学者の期待を集中的に集めました。それは、これまでには無かったような一枚鏡の大口径と新しい技術を使った多くの検出器に多大な期待感が寄せられていたからです。期待感を強く寄せられると、実際に建設や製作に携わる人には強い責任感とプレッシャーを与えるのですが、このプレッシャーに打ち勝って世界の期待に添うように努力します。こうして、天文学者の要望と技術者の熱意が、あの大望遠鏡「すばる」を完成させたのです。完成し、実際の天体に向けられたときには今まで見たことの無いような新しい世界が繰り広げられたのでした。これも、いままでの技術では達し得なかった未知の世界で、新発見と言っても差し支えないでしょう。
 あの星、この星、星探しの世界も、具体的な、例えば彗星、小惑星、新星などの留まらず、このように新しい技術に支えられた観測で見つかった新事実にも当てはまることになるのです。佐治天文台が命名権をもっている小惑星が幾つかあり、その中の何個かには佐治天文台に縁の名前がつけられています。これらの小惑星も、佐治天文台の研究員が行っている研究活動の賜物なのです。実は、私もおよそ100個の小惑星と1個の彗星を発見し名前を付けた小惑星がおよそ60個。自分で「お星持ち」と称して楽しんでいます。天文学は、面白いもので研究対象に事欠きません。何しろ、世界の天文学者やアマチュアの数より遥かに星の数のほうが多いのですから。そして、そこには必ず未知の世界が広がっているのです。最近、太陽系の天体が新しい分類で区分けされ、それまで惑星とされていた冥王星(プルート)が惑星から準惑星に変えられたことは記憶に新しいことです。この分類変更の背景には、新しい検知器(光を受け取る手立て)が開発されたことや大口径の望遠鏡が活躍を始めたことによって、遠いものも近いものも其れなりに検出される精度が向上したことにより、いままでの太陽系の姿が見直されたからなのです。
 星の数。あの星、この星、星探しも、星の数ほどある星が研究の対象になるのですから終わることを知りませんね。




2011年1月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2011年1月の星空です
昨年秋から見ごろを迎えていた木星が、
夕方西の空に見られるようになりました。
南から東の空は冬の星でいっぱいです。
オリオン座を目印に星空めぐりを楽しみましょう。


次 回も、お楽しみに

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