天文セミナー 第162回

『佐治の夜空を見てみよう!』



6.星にもいろんな星がある。

 「星」と一言で表現してしまいますが、これで良いのでしょうか?。星という言葉には多くの夢を含んでいて、一種の夢言葉のような雰囲気が纏わりつきます。星物語、星の王子、貴方の星、私の星、星占い、などなどですね。時々、貴方のお仕事は?と聞かれることがあります。私は「星屋」です、と応えることにしていますが、相手は不審な表情で再度聞きなおします。きっと、聞きなれぬ表現なのでしょうね。天文屋と応えることもありますが何となく気取った感じが否定できないので、この言葉はあまり使いたくありません。
 答えを聞いたお相手は、「結構なお仕事ですね」、そうして「夢があって、ロマンが一杯ですね」と続けられるのですが、その後が続きません。夢やロマンで一生が送れるとは考えては居られないはずなのですが。この夢を見させてくれているのが、星の世界の探求でしょう。星と一括りに言ってしまうとなんだか頼りなく感じますが、星毎に分類して○○星の追求、△△星の探求、果ては□□星の探査となると、雰囲気が全く違ってきます。
 星とは何でしょう。「夜空に光り輝くものが星」と定義すれば総てを包含しますが味気なくありませんか。私は、ここで言う「ロマン」とは興味と追求の持続だといつも考えています。そこに、絶えることの無い喜びがあるのです。
 さて、閑話休題。星の素性を調べると、それこそ星の数ほどに分類されます。力学で繋がった星、同じような元素構成の星、物理状態が良く似た星などなどでしょう。私達に最も身近な星は、何と言っても地球。宇宙にたった一つしかない我われ人間を始め動植物の故郷ですね。「地球は青かった」といったガガーリンの言葉が思い出されます。
 見かけが小さく暗い星、明るく輝き存在を主張しているような星、ひっそりと微かに纏まって集まる星団の星。さらに、夜空の徘徊者とも言われる彗星、目には見えないが太陽系の主要な構成員・小惑星。このように多数に分類される星も、夜空で輝き、定まった法則に束縛されて宇宙という空間を巡っていると考えると不思議な思いに捕われます。
 これらの星々が、それぞれ異なった場所で、違った時刻に発した光が、いま私達の瞳に同時に到着していることに、強い感銘を受けるのは私だけでしょうか。
 目前の風景にしても、見えている物体を出た光はそれぞれ異なった経路を通り、同時に目の神経に到着しているのですね。光の持つ魅力の一つでしょう。
 夜空には、青い星、赤い星などがそれぞれの光を放ちながら輝き、存在を誇示しているように見えますが、色にはそれぞれの温度が表わされているのです。星の体温とでも言えるような、そして最近の話題に登場するサ−モグラフィーのように。言い換えると、星のサーモグラフィーが星の色なのです。昭和40年代のことです。私は、ある教科書会社の中学校の理科の教科書の執筆と画像を依頼されていました。当然、天体の色についての記述です。初めてカラーの図版が使われることになりオリオンの三ツ星と上下のリゲルとベテルギュースを取り上げ、色の違いは温度の違いで、その星の年齢と表面温度に関係することを書きました。オリオンはこのような時の素敵な参考対象になったのです。そして、さらに三ツ星の南の小三つ星にあるオリオン星雲は星の誕生の場所であるとも。
 1987年2月のことです。一通の天文電報が私の所へ届きました。地球の南半球からしか見えないマゼラン星雲に、今まで見えなかった超新星が現われたと言う内容でした。世界中の天文学者や物理学者が一斉にこの天体に瞳を凝らしました。一生を終えるときに起きる星の大爆発だったのです。この現象が、小杉元東大教授ノーベル賞受賞に繋がるのでした。この現象と同じように、一生を終えた星の残骸が夜空の各所に薄いガス状の光として観測されていますが、このように生涯を終える星、いま誕生したばかりの星、これから生まれようとしている姿などが夜空に潜んで、我われの目を待ち続けているのです。佐治天文台の研究員も、太陽系を駆け巡る小さい天体から、宇宙最大の爆発である超新星の観測まで、尽きることの無い探求に努力して、その成果を皆様に伝えたいと努力を傾けているのです。佐治天文台で、色々な星の姿に接して見ませんか。




2010年12月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2010年12月の星空です
北西の空にはくちょう座が見えます。「北十字」とも呼ばれ
ちょうどクリスマスの頃の夕方、北西の空に「星の十字架」
として見ることができます。
東の空には、賑やかな冬の星たちが昇ってきました。
代表的な星座・オリオン座を目印に、
他の星座をたどってみましょう。


次 回も、お楽しみに

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