天文セミナー 第160回

『佐治の夜空を見てみよう!』



4.星の数って何?

 「星の数ほど」、という例えがあります。また、同じように「浜の真砂の数ほど」とも言われます。この例えは、どちらも数え切れないほど多くのものがあると言うときに使われる例えでしょう。さて、今年は日本の人口を調べる「国勢調査」の年です。皆さんのお宅にも調査票が配られたことと思います。国勢調査は、国内の総ての人の総数を知ることとその動向を調べ、過去から将来への統計の資料とされるものです。調査員の方々のご苦労が偲ばれますね。ところで、この国勢調査を星の世界に応用するとどうでしょう。実際に星数えを行うことは至難のことですね。見る人の眼の感度によって数に違いが生じます。最初にこの人口調査とも言うべき研究にトライしたのは、ウイリアム・ハーシェルでした。夜空を幾つかの区域に分割し、その中に含まれる星を徹底的に数えたのでした。同じ望遠鏡で同じ人が観測することによって、誤差を少なくすることができるわけですね。こうして、天の川と、天の川から遠く離れた場所での星の数の相違から我われの銀河系の姿を推定したのでした。夜空を区切っての星数えは、現在も多くの統計に使われている手法と同じで、サンプリングによる統計ですね。よく知られているのが、各政党の支持率の調査です。これなども、コンピュータによりランダムに抽出した電話による質問と聞き取りによる返答が基本になっていて、対象の電話の数はあまり多くありませんね。私など、こんなに少ない応答者の数から得られた数値がどれほど信頼に堪えるのかと疑問にさえ思うことがあります。それはさておき、これと全く同じ手法で星の数が推定されます。もっとも、明るい星は実際に数えることが可能なので実際に数えますが、暗い星の数は統計的手法によって算出します。ところが、観測機器の開発が進むと意外なことが発生します。国勢調査など、具体的に数を数えることができる対象では決して考えられないような事実です。例えば、まだ発見されていないような微生物の種類やウイルス、実際にカウントできるといっても先ず不可能なのが光の粒子、光子と呼ばれていますがこれなどの数は統計でも推定できませんね、また実際に計数も不可能です。これと同じようなことが星の数の計数にも起きるのです。
 暗い夜空も、無数の星があることが判ると、さらに星の数は増加します。ある時期と範囲を区切って数を数えても果たして実状を表わしているのか疑問になります。さらに、暗い夜空にも星が満ち溢れているとなると、次は宇宙の果ては何処?と言う疑問が生じます。
 数え切れないような膨大な数、または表現できないようなものを無限と言い表すことがありますね。限りない、という意味で使います。宇宙を表わすときにしばしば使われる言葉で、無限に広がる果てしない宇宙とか、星の数が無限などと言い表します。
 限りない広がりと思われているのが宇宙ですね。ところが大きな口径の望遠鏡が開発され、より暗い天体が見つかるようになると宇宙の大きさが天文学を研究する人に留まらず、一般の人たちの関心を呼ぶことになり、宇宙には果てがあるのか、ないのか、との議論が行なわれるようになりました。
 19世紀になって、ドイツ人の医師オルバースと言う人がこの疑問に一種の答えを出したのです。「夜空は何故暗いか」と自問自答したのです。いま、ここで星は全部同じ明るさと仮定します。そして同じ密度で無限の宇宙空間を埋めていると仮定すると、宇宙は真昼の明るさになってしまうのです。星の数が無限で、宇宙の広がりが無限ですから、無限X無限ですから答えは当然無限ですね。ところが、実際の夜空は暗く、夜道を歩くには灯火が必要です。これを、オルバースのパラドックスと呼びます。しかしこの仮定は、事実には反しますがいずれにしても夜空は暗く、宇宙には果てがあるのです。
 皆さんも、夜道を歩くとき、手元に灯火がないと不安で、歩く足元もおぼつかなくなることを体験していることでしょう。夜道を照らす灯火が必要な理由の一つですが、一方あまり明るいと返って社会不安を引き起こすことにもなりかねません。夜空が暗いのは、結局星の数は無限ではなく、また宇宙にも果てがあること、つまり宇宙は無限の大きさではないということなのです。
 環境省が行っている、全国星空継続観察(スターウオッチング)事業は、明るすぎない夜の環境を守ろうという考えからスタートしました。佐治天文台でも、「ソラクライ プロジェクト」で、星空と地球環境を考えようというキャンペーンを展開して、この事業に参加しています。皆さんも、ぜひ参加していただきたいものです。




2010年10月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2010年10月の星空です
夏の大三角が西空に見られるようになりました。
秋の四辺形と天頂を挟んで押し合っているようにも見えます。
星の明るさや広さは夏の大三角が上ですが、
この勝負はいつも秋の四辺形の勝ちですね。
特に今年は、木星が加勢するように明るく輝いています。


次 回も、お楽しみに

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