天文セミナー 第156回

『日本の民間天文台(Y)大望遠鏡時代』『日本の天文アマチュア の活躍(Y)天体写真の先駆け』



日本の民間天文台(Y)大望遠鏡時代

 日本の天文観測施設が大望遠鏡を設置し、いわゆる大望遠鏡時代が始まったのは、当時の東京天文台長・萩原雄祐先生が提 唱された岡山天体物理観測所と堂平山観測所が東京天文台の付属観測所として創設された頃からでしょう。それまでの最大口径の望遠鏡と言えば、東京天文台の 26吋(65cm)屈折望遠鏡でした。10mを超える長大な焦点距離を持つ望遠鏡で、建設当時の世界の天文学の主流であった位置観測が主な目的でした。 1930年代の特異小惑星エロスの地球接近に際して、長大な焦点距離を利用した精密位置観測が行われましたが、特長である長大な焦点距離、言い換えると長 大な望遠鏡の筒がその支点を中心に撓むというアクシデントに見舞われ、その補正に苦労した、と記録に記述されていますが、この望遠鏡は何しろ東京天文台の シンボルでした。
 一方、日本の天文アマチュアの活躍は目を見張るようなのが実状で、個人的に観測所を建設し、自身の興味を満たすようなテーマで 観測に励んでいるような状態でした。この実状に一石を投じたのが、当時の竹下内閣による「ふるさと創生基金」でした。国内の総ての自治体に漏れなく配布さ れた一億円基金です。この基金を元手に、幾つかの自治体は天文観測施設を作ることを始めたのです。この動きに、当時の環境庁(現・環境省)が始めていた全 国星空継続観察の事業が後押しをするような結果になりました。極端な表現が許されるなら、それこそ雨後の筍のようにアチコチの自治体に競うように天体観測 施設が作られたのです。そして、あたかも大口径こそ素晴らしい、と言う早まった表現で一位を競い合うような結果を招いてしまったのでした。もとより、口径 の大きなことは天体望遠鏡の重要なファクターですが、それにも増して各部分の精度と強度が問題になり、さらに勤務する職員の錬度や熱意がもっとも重要で す。ボランティアの協力に依存するのも結構ですが永続性に問題があります。自治体の職員の異動によって賄うことも可能でしょうが、異動により職員の熱意も 減少するでしょう。これは、各地に創設された、大口径の望遠鏡を持つ施設に共通する問題点です。しかし、これらの施設が果たす天文の普及は、多くの問題を 抱えながらも着実に成果を挙げてきました。地域への還元という視点からは、多くの一般市民の注目を浴び、地域の報道関係者からは日夜注視されています。大 望遠鏡を維持するには、多くの負担がかかることは言うまでもありませんが、管理運営する自治体にはこの負担を超える有形無形の財産が残され続けているので す。市民天文台を支えるのは、自治体だけの努力に負うのではなく、一般の方々の支援を強く期待したいものです。(完)


日本の天文アマチュアの活 躍(Y)天体写真の先駆け

 私が在職していた頃の東京天文台に、「射場観測所」と言うラベルが貼られた星図があり ました。星図とは、星の位置を書き示した図で、言うまでもなく恒星の位置の精密観測が基本であり、天体観測の必需品です。当時、もっとも高い精度とスケー ルの大きいことで知られていたのがボン星図とコルドバ星図でした。共に同じスケールで書かれ、ボン星図の極限等級は9乃至(ないし)10等級、コルドバ星 図は9.5等級と言われていました。出版されたのはボン星図が1863年と1887年、コルドバ星図は1929年で、それぞれ基準になる元期は1855年 と1875年。この星図の前の持ち主が、神戸在住のアマチュア天体写真家・射場保昭氏だったのです。東京天文台は1945年に火災に遭い、資料の多くを焼 失しました。この資料を補うため、アマチュアの方々の応援を依頼し、そしてその中にこの射場氏の星図が含まれていたのでしょう。この星図のお陰で、当時最 も活躍していたブラッシャー天体写真儀で撮影した乾板上で小惑星などの検出に大いに役立ったのでした。写真乾板とこの星図のスケールが殆ど同じだったこと も好都合だったのでした。射場氏は、日本のアマチュア天体写真家の中でも突出した存在で多くの写真を残され、日本天文学会の機関紙「天文月報」に「望遠鏡 並びに天体写真に関する私見」と題した論文を1934年に掲載されています。まさしく、日本のアマチュア天体写真家の先駆けだった人でした。
 東 京天文台の資料室に、イニシャル(Si)をつけた写真乾板の一群が残されています。この写真乾板の一群は、静岡県島田市で知新薬局を営まれる傍ら、天体写 真に精力的に挑まれた清水真一氏が撮影された天体写真に他ならないのです。中学2年生の頃からの天文少年であった清水氏は、その後東京天文台の広瀬秀雄氏 と交友を深め広瀬氏が求めたダニエル周期彗星の回帰の世界最初の検出者になりました。この他にも、多くの天文アマチュアが輩出し、それぞれの成果を残され ていて現在の裾野の広い日本の天文学界に繋がるのです。(完)



2010年6月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2010年6月の星空です
夕方西空に見える金星は、少しずつ高度が上がってきて、
沈む時刻も遅くなり、見えやすくなってきました。
春の大三角が見ごろですが、東の空には
早くも夏の星たちが見えています。


次 回も、お楽しみに

天文セミナーに戻る