天文セミナー 第155回

『日本の民間天文台(X)学校天文台』『日本の天文アマチュアの活躍(X)惑星観測』



日本の民間天文台(X)学校天文台

  天文の普及に忘れられないのが学校に設置された学校天文台でしょう。現在の学校教育で、初めて天文に関する教科が現われるのは小学校3年(4年生のことも あった)でしょう。先ず月と太陽に関して、その見かけの動きが現われます。生徒たちには中々理解できず、また教師の方たちも天文に疎い方が多いのも実情の ようです。1980年代に始まったNHKのラジオ子ども科学相談に最初から出演していた私は、この番組に「学校で先生に月の見える方向と形の変化を調べる ように、と宿題を出されたのですが、夜いくら待っていても月が見えません。宿題にはどう書いたらよいのでしょうか?」と言う質問が寄せられました。この番 組は、即答が基本です。マイクの前で、私は「正直に、見えなかった。と事実をお書きなさい。」と返答をしました。この背景には、先生が事前に月の見え方を 調べていなかったことに原因があります。夜の観察を基本とする天文の学習は、指導する教師も大変と思いますが教師が学んだ学校に天文の学習施設があり、積 極的に活動される担当の教官が居られるか否かに大きく左右されることでしょう。
 このような事態を回避するために設けられたのが、当時の文部省によって設定された「理振法」で、総ての学校に天体望遠鏡が設置されるよう配慮されていま した。しかし、これより遥か以前に、旧制の中学校の中には独自の天体観測施設を設置して天文の教育に務めていた学校があり、また旧制の高等学校や大学に は、天体観測の施設を持ち、専任の担当教師の居たところもあったそうです。しかし、多くの学校には担当の教師はもちろん、天文に興味を示される教師もない のが実状だったようです。
 天体観測施設を設置していた旧制の中学校の殆どが10cmクラスの屈折望遠鏡で、このクラスの望遠鏡は旧制高等学校に於いても同様でした。背景には、天 体望遠鏡が高価であったこと、適当な指導者に恵まれていなかったことなどが挙げられるでしょう。しかし、この事実は、それ以後の天文アマチュアの輩出に大 きく寄与することになるのです。現在、シルバーエイジといわれる天文老年の多くは、学校天文台で育まれたのでした。しかし、観測施設がない学校で学生時代 を過ごした人でも、天文計算の分野に参入し、特に天体の軌道計算に熱中した人も多く、天体力学に大きく寄与しているのです。


日本の天文アマチュアの活躍(X)惑星観測

  天文学者と呼ばれる人たちがいます。この人たちは、どんな切っ掛けで天文学に足を踏み入れたのでしょう。青春時代に、天文に興味を持って自分の将来の姿に 天文学を重ね合わせたのでしょうか。私が、東京天文台に在職していた時代のことです。天文学者になる切っ掛けを調べた(?)ことがありました。最も多かっ たのは星そのものに興味があったから、で次は数学の興味の対象を天体の運動に求めたから、そして最後が物理学の研究の場を天体に求めたから、というもので した。そして、独自の理屈を持ち理論武装するのです。特に、数学や物理に興味を持つ人たちはアマチュア的な発想は乏しく、自分の研究に没頭していたので す。星そのものに魅力を感じ好奇心に満ち溢れていても、自身の研究に多忙で傍系と思われていた惑星面の現象迄は手が回らないのが実状でした。
 これに反して、京都大学では天文同好会の時代から惑星面の観測に大きな興味を示し、特に火星と木星の観測では大きな成果を挙げ、この観測はその後飛翔体 による観測が始まるまで継続されたのです。しかし、1909年の火星の接近に際して、西欧諸国がその表面の観測に多くの努力を払っていたにも関わらず我が 国では観測機材の不十分なことにより傍観の憂き目に甘んじたのでした。そして、太陽系の問題が大きくクローズアップされるまで、殆どのプロの天文学者の関 心を集めることはありませんでした。1956年9月7日。この日、火星が17年ぶりに地球に大接近するのです。日本はもとより世界の火星観測者はこぞって 火星を見つめたのです。当時、日本では佐伯恒夫、木辺成麿、村山定男の諸氏が眼視観測により見事なスケッチを発表されていました。そして、当時の20cm クラスの望遠鏡による写真撮影も試みられ、スケッチと併用されて色による模様の見え方の差が云々されていました。私も、この写真観測に、当時の国内最大の 26吋(65cm)屈折望遠鏡で挑戦したのです。65cmのレンズは天体写真用に設計されていて通常の写真には不適当です。そこで、ガイド用の38cm屈 折望遠鏡を使用することに決め、35mmフイルムでは初めての高感度フイルム、コダック社のダブルX(ISO100)を使用して、数百枚の赤色と青色の写 真を得ることができたのです。これが東京天文台として最初の火星表面の写真だ、と上司に言われたことを思い出します。



2010年5月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2010年5月の星空です
星空は春の星でいっぱいになりました。
北斗七星から春の大曲線をたどってみましょう。
北東の空は、早くもベガが昇ってきています。


次回も、お楽しみに

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