天文セミナー 第152回

『日本の民間天文台(U)京都大学花山天文台』『日本の天文アマチュアの活躍(U)流星観測』



日本の民間天文台(U)京都大学花山天文台

 民間天文台と言うには少々抵抗を感じるのですが、日本の天文を語るときに忘れられないのがこの天文台でしょう。この京都大学花山天文台は、1910(明治43)年のハレー彗星の回帰に際して、ドイツのザートリュース社製の18cm屈折望遠鏡を購入し、大学構内の5mドームに設置したのに始まるそうです。その後、京都市の発展により大学近辺が観測に適さなくなり、京都市の東、花山に1927(昭和2)年に建設が始められ、1929(昭和4)年10月の移転完了とともに観測を開始したとされています。この天文台の特色は、何と言っても当時のアマチュアの人たちとの繋がりが大きく強かったことでしょう。
 台長・山本一清氏は、太陽と太陽系の研究に重点を置きながらアマチュアの育成に力を注ぎ、前回の倉敷天文台の設立にも大きく関与しているのです。1920(大正9)年に山本一清氏らを中心に結成された天文同好会(現・東亜天文学会)は、数年にして千人を越える会員を集め、関西を中心に北海道、東北、関東から四国・九州、さらに当時の満州(現・中国東北部)や台湾にまで活動範囲を広げたのでした。
 天文台の建設と天文同好会の発足が、ほぼ同時であったため多くの市民の天体への関心が高まってきたのでした。この事実を背景に、市民のための見学会や一般講演会などが頻繁に開かれるようになりました。熱心な天文のアマチュアは、天文台の見学だけでは満足せず、ついに無給の観測助手として天文学の研修に励む人も現われてきたのでした。こうして、太陽、惑星、小惑星、彗星、変光星など多くの観測者が育てられたのでした。
 常時2名ないし3名の無給の観測助手が天文台の建物に住みこみ、学生に混じって天文台の仕事を手伝いながら天文学に親しんだそうです。鳥取市で余生を過ごされた三谷哲康氏も、最初はこのメンバーの1人でした。これらの活動は、山本一清氏によって繰り広げられ、その普及活動の結果、倉敷、和歌山、大津、岐阜などに天文同好会の会員の働きにより民間や個人の観測所が開設され、太陽黒点、彗星の捜索、変光星の観測、流星観測など現在の日本のアマチュア天文家の活躍の素地が作られたのでした。


日本の天文アマチュアの活躍(U)流星観測

 流星観測。これほど手軽な天体観測はないのかも知れません。何しろ、望遠鏡は不要でただひたすら夜空を見つめていれば良いのですから。星好きが昂じてくると何にも増して望遠鏡が欲しくなるものです。そこで一言。望遠鏡不要の天文学=流星観測でしょう。
 閑話休題。昔から天狗などと呼ばれて、夜空を駆け抜ける不明の物体として知られていたのが流星です。流星を天文学の一分野として認識し、多くの観測者や研究者をそだてたのは、花山天文台から発行されていた天文同好会の会誌「天界」でした。
 流星現象には、時と方角を選ばずに出現する散在流星と、ある時期にある決まった星座から出現するように見える群流星があります。夏の夜空に出現する「ペルセウス流星群」や、11月の夜空に多数の流星を雨のように出現させた「しし座流星群」などは、有名な群流星でその起源は彗星にあることが知られています。それに比べて、時と方角を選ばないで出現する散在流星は、太陽系の中を一人ぼっちで彷徨っている小さな天体です。
 これらの流星が、一まとめで流星と呼ばれているのです。夜空を見上げていると、突然音もなく明るい流星が現われることがあります。大きいものは火球と呼ばれ、中には隕石となって地上に落下することもあります。私が東京天文台に勤務していた頃のこと。郷里・岡山で大きな火球が流れたことを父親からの電話で知ったのです。場所は、倉敷市。天頂付近を通過して四国の方角へ大きな音を伴って飛行したという事実です。天文台に出かけて各地の状況を調べると、多くの目撃者があることがわかりました。目撃談を総合し、解釈すると香川県の西部高見島付近に落下している可能性があることがわかりました。
 早速、調査に出かけましたがどうも海中に落下した様子で、現物を拾い出すことはできませんでしたが、多くの目撃者の証言により落下の場所がある程度の範囲で特定できたのでした。もし、隕石として拾い上げられていたならばと思わずにはいられません。何しろ隕石は、実物を手にすることができる唯一の天体なのですから。太陽系の生成時代の組成を封印したままでしょうから、始原物質を特定できたかも知れません。
 また、群流星の出現時刻と出現の方向からは、流星物質の起源である彗星を特定することができ、さらに元素まで知ることができるのです。
 プロの目に比べ、アマチュアの無数の目が天空を見つめている事実は、流星天文学に取り何にも増して心強い支えなのです。



2010年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2010年2月の星空です
地球への最接近を終えたばかりの火星が、
かに座の辺りで明るく輝いています。
かに座を見つけるチャンスですので、火星を目印に
探してみましょう。双眼鏡があればプレセペ星団も良く見えます。


次回も、お楽しみに

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