天文セミナー 第141回

『望遠鏡物語(5)』『望遠鏡物語(6)』



望遠鏡物語(5)

 天文学者は、何故大きな望遠鏡を欲しがるのでしょう。ガリレオが、彼の発明した望遠鏡を初めて天体に向け、月の表面のクレーターを発見し、木星の周囲を巡る衛星や、天の川を見てそれまで肉眼では見えなかった微かな星たちの存在に気付いたことは、まさに天文学上の最大の発見だったのかも知れません。望遠鏡という場合、先ず挙げられるのがその倍率でしょう。遠くのものを、まるで目の前にでもあるように見せてくれる事実です。この倍率という事実が、当時の軍用目的として重要視されたことはすでに書きましたが、ガリレオが発見していた目には見えないような微かな光をも捉えて見えるようにする能力、つまり今では集光力と呼ばれる能力が知られるようになり、重要視されたのです。
 暗いところでは、明るいところに比べると動物の瞳が大きく広がって、物体を確認します。つまりこれは”もっと光を”ということに他ならないのです。瞳が大きくなれば、瞳により集められる光も当然多くなる道理です。私達も、眩しいと目を細めて光の量を少なくして物を見つめますね。つまりこの動作と同じことを、望遠鏡の対物レンズ(鏡)に求めることになるのです。ガリレオが、天の川に多くの微かな光で輝く星があることに気付いたのが、大口径望遠鏡の要求へと繋がる第一歩だったのです。
 さて望遠鏡の口径が2倍になると、対物レンズを通貨する光の量は4倍になります。これはレンズの面積に比例するのです。1900年代になると、大口径の反射望遠鏡が次々に建設され、天体物理と呼ばれる学問が発達してきました。アメリカのハッブルという天文学者は、それまで銀河系の中にあると思われていた楕円形の星雲状の天体、当時は楕円星雲と呼ばれていましたが、その天体の詳しい観測から、宇宙は膨張していると発表したのです。当時としては大変な発表でした。天文学界では大騒ぎになってしまい、喧喧諤諤、甲論乙駁。やがて決着がつき、現在では宇宙は膨張していると天文学者は確信していますが。この研究を支えたのが、大口径の反射望遠鏡だったのです。そして、さらに大口径望遠鏡の建設へと大きく踏み出したのでした。1948年にアメリカのパロマー山天文台に建設された508cm望遠鏡もそういった要請によって作られました。



望遠鏡物語(6)

 大口径望遠鏡によってもたらされる研究の結果は、どうだったのでしょう。その前に口径が大きくなると、どのような効果が現れるか考えてみることにしましょう。先にも書きましたように、口径が大きくなると望遠鏡に集まる光の量が多くなります。その結果、暗い対象まで見ることができるようになりますね。今、どの星も本来の明るさは同じと考えます。そうすると、暗い星ほど遠くにあり明るい星ほど近くにあることになりますね。この考えを元にして、ウイリアム・ハーシェルは我われの銀河系の大きさを推定したのです。この考えと同じような考えを、遥か遠くにまで延長するとどうでしょう。
特大の望遠鏡を使うと、極限まで暗い星が見えることになります。そして、その星は極限まで遠いところに在ることになります。今、この考えをハッブルの研究に当てはめるとき、暗い星ほど遠くに在ることになり、光の速度を考慮に入れると、そこはもう遥かな過去である、ということになるのです。大口径の望遠鏡が見せてくれる、太古の宇宙の姿に他なりません。 口径が大きくなると、実はもう一つ重大な効果が現れてきます。それは、物体をより細かく分解する能力、つまり分解能が増加するのです。この分解能もやはり口径に比例して、より細かな物を見分けることができるようになります。遠くにあるものは、見かけの大きさが小さく、中々見分けられませんね。しかし、口径が大きくなると、それを見分けられるようになってくるのです。
 宇宙の遠くにある、我われの銀河系と同じような星の集団も、それぞれ星ぼしに分解して見ることが可能になってきます。天文学者が、競って大口径望遠鏡の建設に情熱を注ぐのは、より遠くまで見たい、そしてより細かな物まで知りたいという強い希望の現われでもあるのです。望遠鏡の口径が大きくなるとどれくらい遠くまで見られるのでしょう。今口径が2倍になると入ってくる光の量は4倍になると書きました。しかし、2倍の距離にある星からの光の量は4分の1です。4倍の4分の1で、結局口径の大きさに比例することになるのです。今、佐治天文台の口径103cm反射望遠鏡で見るとして考えるとき、肉眼の瞳の大きさ約7mmの147倍の直径になり、147倍遠い物体を見ることが可能だ、ということになります。アンドロメダ座のアンドロメダ銀河の距離は230万光年と言われていますね。この銀河の147倍も遠い銀河まで、十分に見ることができると言うことなのです。ゲーテは、死に直面して「もっと光を!」と叫んだと言われていますが、現在も「もっと光を!」と叫んでいるのが、天文学者なのです。そして、光と望遠鏡を頼りに、考古学的天文学とでも言える宇宙の始まりの姿に接近しているのです。望遠鏡って凄いですね。(終わり)




2009年3月の星空

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2009年3月の星空です。
今年は世界天文年2009です。
オリオン座をはじめとする冬の星たちで星空はいっぱいです。
オリオンの三ツ星を目印に、星空めぐりをしましょう

天文カレンダー 惑星たち
   
3日: 月の近くにプレアデス星団が見える。
4日: 上弦(半月)
5日: 啓蟄(太陽黄経345°)
10日: 土星が太陽の反対側(衝)となる。(夕方に東から昇り、明け方に西に沈む)
11日: 満月○
17日: 春の彼岸の入り
19日: 下弦(半月)
20日: 春分の日(太陽黄経30°)
23日 月のすぐ近くに木星が見える。(明け方の東の空)
25日 金星が太陽の方向(内合)になる。
27日: 新月●
28日: 月の近くにプレアデス星団が見える。
水星: 上旬に明け方の東の空に見えるが低い。
金星: 上旬は夕方の西空に一番星として見えるが、だんだんと低くなって、下旬には見えなくなる。
火星: 夜明け前の東の空に低い。
木星: 明け方の東の空に昇ってくる。
土星: 一晩中見えるため観察の好期。望遠鏡で見ると細くなった環が見える。

次回も、お楽しみに

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