天文セミナー 第138回

『一枚の絵(U)』『四(方)神(U)』



一枚の絵(U)

 日本で最も有名な画家の一人として知られる、ヴィンセント・ファン・ゴッホの絵に「星降る夜・アルル」があります。同名の絵が複数枚あることが知られていますが、ゴッホの年表によるといずれも、1888年9月から翌年の春までの間に描かれたそうです。
 ここで取り上げようとしているのはその内の一枚で、パリのオルセー美術館に飾られているもので、絵の上部に描かれているのが北極星の下を通過しようとする北斗七星です。ちょうど北斗七星の下方通過の情況で、その下方には河畔に立つ二人の人物が描かれています。まさに星月夜です。美術評論家によると、この絵はゴッホの最終期の作品で彼の心情を最も端的に表現した作品の一つだそうです。しかし、ここの描かれた北斗七星の描写は、まさしく北斗七星と北極星との関連からみると下方通過そのものであって、さらに地平線との関係は、南仏アルルでのものに違いないと考えられるのです。天文学は便利なもので、このようなときには大変有効な手段で、季節が判れば北斗七星の位置から時刻が推測できます。そして、この絵のそれはゴッホによって描かれた季節の夕刻に完全に一致するのでした。
 天象が描かれている一枚の絵。見る人にとっては、絵の中の添景にしか過ぎなくても、そのときその場所を特定することが可能になるのです。
 一般に彗星は、東洋でも西洋でも古来不吉な前兆として描かれることが多いと思われます。ところが、前回のフォーゲラーの絵は、イエス・キリストの誕生が預言者ヨハネによって告知されている情景であります。救い主として神から地上に遣わされた神の子イエスの誕生を告げるヨハネの頭上に彗星。まさに、良き知らせ、吉兆として取り上げられているのです。フォーゲラーについては全く無知の私ですが、彗星を瑞兆、または吉兆として取り上げたこの絵に驚きを深くしたのでした。
 ゴッホの絵にしても同様。作者の心情だけに留まらず。季節や時刻までも知る手立てが潜んでいるのです。
 私は、いまここで絵についての解説を試みようとしているのではありません。一枚の絵に、もし天象、具体的には星が描かれていたならば、その天象から多くのことを推測し、描いた画家のその時の心情や社会情勢まで想像することができるのではないかと思うのです。星がキーワードの美術鑑賞。星に想いをかける者の密かな喜びでもあるのです。



四(方)神(U)

 さて、前回は北の守り神「玄武」のお話でしたが、今回はその他の守り神についてお話しましょう。玄武の次は、やはり東を守る「青竜」。竜は最も掻きたてられる想像上の獣です。
 日本では、竜神と称して「水」に関わる信仰の対象とされることが多く、「八大竜王」など多くの地に見ることができますが、これなど竜巻からの連想であろうといわれています。また浦島伝説の「竜宮城」も水の中。中国の史記天官書に「東宮は蒼竜、房と心にして・・・、大火は天王・・・」と書かれているそうで、これは星座ではさそり座に当り、大火はアンタレス。竜が身を躍らせる姿なのでしょうか。そして、夏至を教える星として知られていました。
 次は、南。「朱雀」です。これも想像上の鳥で、一説ではこの「朱雀」の原型は鳳凰とも言われているそうで、いずれも瑞鳥として考えられた鳥です。お祭りなどで御馴染みの御神輿には必ず装着されているのがこの鳳凰です。また、都に内裏から始まる南北の大通りは朱雀大路。この通りの東側が左京、西側が右京と定められていて、星座にもその原型を見ることができるそうです。つまり、春分の目印として使われていた海蛇座の星というわけです。
 さて、最後は西の守り神「白虎」。明治維新に関わる戊辰戦争で、会津藩の若武者の組織が「白虎隊」。あまり関係は無さそうですが、なじみの名前です。この白虎の姿は、青竜とほとんど同じで、顔の作りと火炎の無い点が違うだけともいえるでしょう。古代の中国に、当時の西域からライオンが献上されたときには大きな話題になったことでしょう。 そして、この珍獣をモデルに、「青竜」や「白虎」が形作られたのかも知れませんね。ところで、中国の史記天官書には参宿(シンしゅく=オリオン)とされていて「西宮は白虎。参は白虎・・」と記載されているそうです。
 古代の思いを現代に見て、さらに体験するのも楽しいものですね。




2008年12月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2008年12月の星空です。
東の空には冬の大三角、そしてオリオン座が見えてきました。
オリオン座が見えると、「いよいよ冬到来」という感じがします。

天文カレンダー 惑星たち
   
1日: 月の近くに木星が見える。このころの夕方、金星と木星が並んで見える
2日: 月の近くに金星が見える
6日: 上弦(半月)
7日: 大雪(太陽黄経255°)
13日: 満月○
14日: ふたご座流星群が極大
(月明りがあって条件は良くない)
19日: 月の近くに土星が見える
下弦(半月)
21日 冬至(太陽黄経270°)
23日 天皇誕生日
27日: 新月●
29日: 水星食が見られる(昼間)
31日: 水星と木星が並んで見える(夕方の西空)
水星: 月初めには太陽に近く見えないが、月末になると西空低くに見えてくる。31日には木星と並んで見える。
金星: 日の入り後の南西の空にひときわ明るく輝く一番星。少しずつ日の入り後の高さが高くなる。
火星: 太陽の向こう側にいるため見えない。
木星: 日の入り後の南西の空に見える。少しずつ日の入り後の高さが低くなる。12月1日には金星と並んで見える。
土星: 深夜に昇り、夜明け頃に南の空に見える。

次回も、お楽しみに

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