天文セミナー 第137回

『一枚の絵(T)』『四(方)神(T)』



一枚の絵(T)

 ある晴れた日に私は、尾道白樺美術館で開催中の「ハインリッヒ・フォーゲラー展」を鑑賞するために訪れました。1910年、進取の青年文学者達によって「白樺」誌が創刊されました。これは、新しい息吹を文学に止まらず広く芸術界にも吹き込もうという心意気のあらわれでした。そして、創刊初期の「白樺」誌の表紙には、ドイツの芸術家ハインリッヒ・フォーゲラーによる白樺の絵がシンボルとして使われているのです。
 展示室を巡るうちに、1枚の絵が目に留まったのでした。その絵は「羊飼いたちへの誕生の告知」と題された、30号の作品です。大きく十字架のように両手を広げ、背中を見せるのは預言者ヨハネでしょうか、そしてその足下には数人の羊飼い達が預言者ヨハネによるイエス・キリスト誕生の告知に聞き入っているのです。ヨハネの頭上には大きく左方に尾をたなびかせた彗星の姿が描かれていました。この絵に付けられたキャプションによると1902年に描かれています。私の脳裏をかすめたのは、この彗星の名前は何だろうか?という疑問でした。帰宅して調べると、この絵が描かれた前年の1901年4月12日に南米ウルガイのヴィスカラが発見し、5月中旬まで肉眼で見ることができた彗星があることが判明したのでした。この彗星の明るさは、最も明るいときには〇等級にも達し、日没の直後でも見られ、1901年の大彗星と呼ばれているものでした。軌道計算の結果、4月末には夕方の西空で長さおよそ10度の尾を南になびかせた姿で北欧の地でも見えていたことが判ったのでした。当時、フォーゲラーはドイツで活躍していたので、この彗星を実際に見た可能性は皆無ではないと私は想像しました。絵が描かれたのが1902年、そしてこの大彗星が現れたのが1901年4月から5月。ここで、この絵に描かれた彗星の尾の方向から、夕方、ヨハネが西を向いて羊飼いたちに告知していると解釈すると、描かれた尾の方向も矛盾なく説明できるのではないか、と考えました。結局、フォーゲラーは、この彗星の強烈な印象を元にこの絵「羊飼いたちへの誕生の告知」を描き上げたと推測することができるのではないかと思ったのでした。



四(方)神(T)

 奈良県明日香村で発見され大きな話題になったのが高松塚とキトラ遺跡です。そしてその遺跡の中で最も注目されたのは何といっても天井に描かれた天文図でした。さらに、玄室の壁面に描かれていたのが表題の「四方神」、「四神」とも呼ばれて四方を守る守り神とされていました。獣が描かれていることから「獣神」とも呼ばれたようです。
 奈良の薬師寺のご本尊「薬師如来」の台座に注目してみましょう。薬師寺を参拝された方は、台座の四方を守るように施された彫刻にも目を注がれたと思いますが、その四面のほぼ中央に浮き彫りにされた「四方神」に気付かれたことでしょう。そうです、ご本尊の「薬師如来」は南向きに鎮座されていて、その背面、つまり北面には「玄武」、東面には「青竜」、南面には「朱雀」、西面には「白虎」がそれぞれ描かれています。
 この四方神は、薬師寺建立の時、つまり天武天皇の発願により藤原京に作られたのが、平城遷都の後、現在地に改めて建立されたそうです。そして「薬師如来」像などの主要な構造物などは天平二(730)年に作られたといわれています。そのとき、すでに「薬師如来」の台座に浮き彫りとして施されていたことになり、これはその当時の文化先進地であった「唐」の伝統文化が刻まれていると考えられるのです。
 「唐」の仏教文化によると、それぞれの獣は、四方を守る守護神でそれぞれその方角の守護としての役目を負っているとされていたのでした。
 さて最初は北の守り神「玄武」。亀を巻いたように蛇が絡み付いています。そして、亀と蛇がたがいに顔を向き合わせているような奇怪な図柄です。皆さんもすでにご承知のように、亀は万年の寿命があるといわれます。そして、蛇も脱皮を繰り返します。この2種の獣から受けるのは、いずれも再生と甦りですね。北半球に生まれ、生活する者にとって北方は暗く陰鬱な場所。そこは死者の居るところという思いが強い方角です。この方向に甦りの象徴、亀と蛇が配され守り神として存在すると考えたのではないでしょうか。
 亀の甲羅は硬く、しかも亀甲と呼ばれる六角形。その六角形をした岩石が玄武岩。玄武岩の由来は兵庫県豊岡市の玄武洞によるとされていますが、意外な命名の由来でした。





2008年11月の星空

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2008年11月の星空です。
夏の大三角が西空低くに見えるようになりました。
頭の上は、秋の四辺形などの秋の星でいっぱいです。
夜遅くには、東の空に冬の星たちが昇ってきます。

天文カレンダー 惑星たち
   
1日: 月の近くに金星が見える(夕方の西空)
3日: 文化の日、おうし座流星群(南群)が極大
4日: 月の近くに木星が見える
6日: 上弦(半月)
7日: 立冬(太陽黄経225°)
12日: おうし座流星群(北群)が極大
13日: 満月○
14日 月の近くにプレアデス星団が見える(明け方)
16日 ふたご座ε(イプシロン)星が月に隠される
17日: しし座流星群が極大(条件は悪い)
20日: 下弦(半月)
22日: 小雪(太陽黄経240°)
月の近くに土星が見える(明け方の東空)
23日: 勤労感謝の日
26日: 水星が外合(太陽の反対側)
28日 新月●
水星: 11月初めは夜明け前の東の低空に見えるが後半は低くなって見えなくなる。
金星: 日の入り後の南西の空に一番星として明るく見える。
火星: 太陽の向こう側にいるためしばらく見られない。
木星: 日の入り後の南西の空に見える。日々低くなり、だんだんと金星に近づいていく。
土星: 夜明け前の東の空に見えるようになってきたがまだ低い。

次回も、お楽しみに

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