天文セミナー 第132回

『月探査(3) レーザ測距』『月探査(4) 月の石』



月探査(3) レーザ測距

 岡山での実験は、1970年代の初期に行われましたが、大きな反射鏡を損傷させてはと、ビクビクしながらの実験でした。やがて、埼玉県の東京天文台堂平観測所に口径360cmの金属の反射鏡が製作され実験に用いられるようになってきました。何しろ、強力なエネルギーを瞬時に開放して月に向けて発射するのですから準備や周囲への配慮が大変です。照準を合わせるのに、2kmほど離れた場所にベニヤ板の標的を作り、それに向けてレーザーを発射すると、そのベニヤ板に大きな焼け焦げが残るほどです。この焼け焦げができるので照準の精度も知ることができたのですが。この実験で、私ははじめて光の矢を見ることができました。レーザーの発射はほんの瞬間、およそ100万分の1秒ほどのパルス光です。従って光の長さは300mほどで、この光の矢が月に向かって秒速30万kmで飛んで行くのです。まさに、光陰矢のごとし、でした。今では貴重な体験と言えるでしょう。そして、この実験の繰り返しから月までの距離が求められ、その精度はおよそ30cmほど。これまでの観測ではとても望むことができないものでした。
 このレーザーによる月までの距離の測定は、多くの困難を伴いました。何しろ月まで往復する内にレーザーのエネルギーが酷く減衰して、夜空からやって来るいわゆる背景光と区別する際に、どの記録(光子=フォトン)が月から返ってきたものか判断するのにいつも悩まされていたのでした。平行光線として発射された光も、およそ1.3秒の後に月に到着しますが、そのときには光は大きく広がってしまいます。この大きく広がった光、言い換えるとエネルギーが拡散した光が1平方mの反射器によって反射されるときには光量はさらに減少します。その光エネルギーが地球の発射地点に向いて返ってくるのですから、光の強さが大きく減衰することは当然です。さらに、この光が往復する間に地球の公転と自転の結果、発射地点とは異なる場所が返ってくる光の中心になるのです。これらの困難を克服することが重要でした。しかし実験を繰り返すうちに、ついに測定距離の精度はおよそ30cmほどにも達したのです。
 現在でこそ、レーザーといえば、誰でもがすぐに頷くほど身近なものですが、まだ開発初期の段階では多くの苦労を重ねたものでした。それでも、この実験から、月までの距離が時間とともに変化することが明らかになり、月の運動理論に大きく寄与したのでした。(続く)


月探査(4) 月の石

 アポロ11号は、月の表面にある岩石を採取して持ち帰ってきました。持ち帰って来た岩石は、21.55kg。人類が隕石以外で、初めて手にした地球以外の天体の物質でした。この岩石は、厳重な管理のもとに研究者によって分析が始められました。この石は、世界の国々の大きな関心を呼び、日本では東京上野の国立科学博物館で公開されたのです。長蛇の列が科学博物館を取り巻き、ガラスのケースに収められ厳重な警護の目が見つめる小さい岩石の欠片で、見られる時間は、ほんの数秒。それでも、多くの人は感嘆の声を上げたのでした。その後、大阪の万国博覧会でも公開され、かなりの人の目によって見つめられました。
 さて、この石の組成は特別なものだったのでしょうか。多くの人の関心を集めましたが、どうやら地球上で見られるごく普通の石と同じような組成でした。しかしこの研究の結果、月も地球と同じような組成を持つ天体であることが判りました。月の石の組成が判ってくると、その成因が問題として再燃します。月の成因として、地球から分かれてできたという説、最初から別の天体として誕生したという説など多くの説が提唱されていますがまだ定説はありません。月の成因という問題の解明にはさらに今後の研究が必要で、日本の「かぐや」もこの解明について重要なデータを提供してくれるものと期待されています。
 月の表面の全表面がすべて「ごろごろ石」で覆われているわけではありません。望遠鏡で撮影された月の表面を見ると、無数の凹凸がありますが、月の全面はほぼ一様に輝いています。もし、月の表面が鏡のようだったとしますと、太陽の反射光はある一点からしか見ることはできないでしょう。例えば、ホールなどにあるミラーボールのように。アポロ宇宙船から月の上に足を下ろしたアームストロング船長の靴の跡がくっきりと残っていた写真を見たことがありませんか。それは、はっきりとそれこそメリケン粉などのように細かい粉に付けられた足跡と同じような感じでした。これは、やはりメリケン粉と同じような微粒子が表面を覆っているためだったのです。この微粒子を「レゴリス」と呼んでいます。このような表面状態なので、太陽の光を総ての方向に反射して、いつも同じように一様に輝いているのです。(続く)




2008年6月の星空

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2008年6月の星空です。
春の星座が西の空となり、夏の星座が見えるようになりました。
土星と火星がしし座のレグルスの近くに見えます。

天文カレンダー 惑星たち
   
4日: 新月●
5日: 芒種(太陽黄経75°)
7日: 月の近くにプレセペ星団M44が見える
8日: 月の近くに火星が見える
水星が内合(太陽と地球の間)となる
9日: 月の近くに土星が見える
金星が外合(太陽の向こう側)となる
10日 入梅(太陽黄経80°)
11日 上弦(半月)
19日: 満月○
20日: 月の近くに木星が見える
21日 夏至(太陽黄経90°)
26日 下弦(半月)
水星: 見かけ上太陽に近いため、ほとんど見えない。下旬に夜明け前の東低空。
金星: 太陽の向こう側にいるため、しばらく見えない。
火星: かに座からしし座の方向に見える。1等級でオレンジ色に見える。
だんだんと土星に近づくように動く。
木星: いて座の方向に見える。マイナス2等級でとても明るい。
夜中に南東の空から昇ってくる。もうすぐ観察シーズン。
土星: しし座のレグルスの左に見える。レグルスよりも少し明るい0.6等級。
夜中の早いうちに沈んでしまう。

次回も、お楽しみに

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