天文セミナー 第124回

『子午線』『因幡の白兎』



子午線

 大分以前のことになりますが、「子午線の祭り」という題名の小説が評判になったことがありました。天文に関係する、しかも天文座標系に直接関わる題名だったので今でも頭の片隅に残っています。
 この題名が示すのが、北極から天頂を通り真南に到る仮想の直線、つまり子午線です。この子午線と地平線との組み合わせで作られた座標系が天文学や測地学、更に航海術に大きく寄与してきたのでした。真北を表わす言葉として正子、真南は正午。方位を干支で表わした時の表示で、この名残が時刻の正午、つまり太陽が真南に有る時を表わす言葉です。
 さて、日本で現在使われている時刻制度は、イギリスの旧グリニッジ天文台のエアリーの子午儀の中心を通る子午線からの経度差に基づいて決められています。そして、日本中央標準時の原点は東経135度です。これは時間の差にして、ちょうど9時間。パソコンや、携帯電話で使用しているメールに表示されている+9.00という数字がこの値に相当するのです。ところで、この子午線は地球の表面に使われるだけではありません。天体の位置を測ったり、示す場合にも使われてきました。今から10年ほど前までは、大きな天文台には必ず子午線に沿ってだけしか動かない望遠鏡がありました。子午儀、又は子午環と呼ばれる機械で、望遠鏡の片側、又は両側に目盛りが刻まれた大きな環を持っていました。この目盛りは非常に精度が高く、更に副尺(バーニア)によって細かく目盛りを分割し読み取ることが可能でした。この望遠鏡の役割は、天体の位置を高精度で観測して求めることでした。子午線に沿って、水準器で決められた水平方向からの高度を、時刻と共に観測します。こうして得られた星の位置を元に他の星たちの位置を求め、さらにその位置を使って時刻を決定していたのです。そして、更に恒星の位置だけでなく惑星の位置観測から惑星の運動理論の改良、もう一歩進んでQSO(クエーサー)などの位置観測から銀河系の骨組みを知り、銀河系の見かけのねじれなどから回転方向や速度の分布まで求めてきたのでした。水準器と子午線を使用して星の位置を求めること、つまり目盛り環以外には頼ることの無い基本的な天文観測でした。こうして築かれたのが、位置天文学で、天文学の基本でした。


因幡の白兎

 大きな袋を 肩に掛け 大黒様が来かかると、・・・・・・。  幼い頃に口ずさんだ有名な童謡ですね。そして、現在では鳥取県と京阪神を直接結ぶ智頭急行の特急の愛称が「はくと」。この白兎の故郷が鳥取県東部の因幡の国です。
 日本最古の歴史書とも文学書とも言われるのが「古事記」。その記述の中に見られるのが、「稲羽の素兎」。童謡に歌われているように、大国主神が兄弟神に連れられて因幡の国の八上比売(やがみひめ)の処へ行く途中の出来事として記載されている事柄です。「皮を剥かれて赤裸」になった白兎も、大国主の言葉に従い、きれいな水で身を洗い蒲の穂綿に包まって、元の白兎に返り、大国主と八上比売との中を取り持つ仲人として働いたとされています。そしてこの後、大国主と八上比売との間に生まれたのが木俣神(きのまたのかみ)、またの名を御井(みいのかみ)という、と記載されています。
 さて、この物語を熟読すると、ギリシャ神話のパエトンにまつわる物語と互いに通じ合うところがあるように思えて来るのです。木俣神は、大国主神に会うため出かけたのですが大国主神の正妻・須世理毘売(すせりひめ)の嫉妬から父・大国主神に会うことができず、母親によって木の股に乗せられ、父親を待ちわびるのでした。そして、ギリシャ神話によるとパエトンは、自分の父親、アポロに会うため遠路はるばる訪ね、ついに太陽の馬車を御しきれずにエリダヌス河に流星となって墜落したのでした。
 2人とも、父親に会いたい一心で遠路はるばると訪ねるのでした。そして、この話は「母を訪ねて三千里」のマルコの話とも何か共通するような気がしてなりません。
 ちなみに、パエトンは小惑星(3200)番に登録されていて、ふたご座の流星群の母天体とされています。エリダヌス河に流星となって墜落した身の上のも共通するものがあるように思えてきますね。



2007年10月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2007年10月の星空です。

星空が、夏から秋に移り変わってきました。
夏の大三角、秋の四辺形を目印に
星空めぐりを楽しみましょう。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 下弦(半月)
月の近くに火星が見える(真夜中〜未明)
7日: 月の近くに金星が見える(明け方、東)
8日 月の近くに土星が見える(明け方、東)
9日 寒露(太陽黄経195°)
11日 新月●
19日 上弦(半月)
21日: この頃、オリオン座流星群が見られる
  (深夜〜明け方)
24日: 霜降(太陽黄経210°)
26日: 満月○
29日: 金星が西方最大離角(明け方、東)
水星: 見かけ上、太陽に近いため見えない。
金星: 「明けの明星」として、夜明け前の東空で明るく輝く。
火星: 午後9〜10時ごろに東の空に昇ってくる赤い星。
木星: 他の星が見え始める頃には西の空に沈んでしまう。
土星: 夜明け前に東の空に見える。

次回も、お楽しみに

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