天文セミナー 第123回

『月食中の月はなぜ赤い』『満月と中秋の名月』



月食中の月はなぜ赤い

 先月、8月28日にはほぼ日本中で、月が欠けたような状態で昇ってくる月出帯食が見られました。欠けて、赤黒くなった月が地平線低く上ってくるのです。このような状態で、普通は地平線から上る月を見ることはほとんど無いことでしょう。月食は、満月にしか起こらないことは誰でもが承知している周知の事実です。ところで、8月28日の東京での日没は18時15分、そして月の出は18時12分。厳密に考えると、まだ太陽が沈まぬ内に月の出を迎えるわけです。月食時の太陽と月の離角は180度なので、なんだか辻褄が合いませんね。これは、太陽は西よりやや北に沈むのに対して満月は東からやや南から上ってくるためです。ところで、太陽や月は、地平線に近づくと赤色を増します。太陽でも、肉眼で見ても眩しくなく、巨大黒点が現れたときなど、肉眼で見えることもあります。余談ですが、古代の中国ではこの黒点のことを「烏(からす)」、しかも3本足の烏と呼んだと語り継がれています。
 さて、地平線に近づいた太陽や月が赤くなるのは、球形の地球とその地球を取り巻く大気層(空気層)に原因があります。球形の地球上で地平線を考えるとき、観測地から離れるに従ってその地平面は地表から離れて行き、やがて大気層を突き抜けます。光は通過する物質の密度の違いによって屈折される大きさが違い、また波長の違いによっても屈折される量が違います。更に、大気中に有る塵埃によって波長の短い青色などは大きな影響を受けますが、波長の長い赤色などは影響が少ないのです。この様な理由で、地平線近くの太陽や月(だけでなく、総ての天体も)などは赤色に見えることになります。そして、皆既月食の月が赤いのも地球の大気層を通過して月に届く光は、やはり波長の長い赤色の光が多いためなのです。1991年、フイリッピンのピナツボ火山が大爆発を起こして、大量の火山灰を大気圏に吹き上げました。夕焼けの地平線近くは、それこそ不気味な赤色に染まり、その年の月食はそれまでに無いほど赤黒く、皆既中の月はほとんど見えなかったといわれています。今回の月食はどうだったでしょうね。


満月と中秋の名月

 毎年、この頃になると決まって聞かれるのが、今年の「中秋の名月」の日付です。佐治天文台でも、「因幡の国のお月見」と題して多くの皆さんに月見を楽しんでもらうことを計画しています。では、なぜ中秋の名月が多くの人たちに親しまれているのでしょう。
  月々に 月見る月は多けれど 月見る月は この月の月  (読み人知らず)
 本当に、毎月毎月決まって見られる満月にも拘らず、この月の月だけがもてはやされるのには何か理由が無くてはなりません。日本で昔使われていた暦、太陰太陽暦によると四季それぞれに孟、仲、季をつけてそれぞれ1ヶ月とし、7月を孟秋、8月を仲秋、9月を季秋と呼びました。そして、仲秋には必ず秋分を含むことが決められていました。この決まりによって、暦が作られ、実際に生活に使われていたのです。中秋の名月は、秋分を含む月の15日目の月、と決められていました。この頃になると、空気中の水蒸気も少なくなり、大気は澄み渡り、月や星に親しみやすくなることも一つの要因で、中秋の名月を楽しみ、愛でる行事が定着したのでしょう。
 さて、この決まりによるとき、中秋の名月は必ずしも満月とは決められていないことに気付きます。そうですが、ただし、昔の人は15夜が満月との考えがあって、現在のような月齢という考えはありませんでした。明治生まれの古老に聞くとき、必ず満月=15夜という応えが返ってきます。ところが、近代の暦が作られ、使用され始めると、15夜は必ずしも満月とは限らないということが知られるようになってきました。
 今年の中秋の名月は9月25日で正午の月齢は13.6、そして満月は9月27日で正午の月齢は15.6。2日の差があることになります。月齢は、太陽と月の位置が一致(詳しくは、太陽と月の黄経が一致)したときから日の小数で表わすので、結局、経過した時間を示しています。さて、今年の中秋の名月は如何でしようか。



2007年9月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2007年9月の星空です。

星空は、まだまだ夏の星がよく見えています。
「夏の大三角」「天の川」を探してみましょう。
東の空には、秋の星たちが昇ってきました。
「秋の四辺形」が目印となります。

天文カレンダー 惑星たち
4日: 下弦(半月)
月の近くに火星が見える(深夜〜未明)
8日: 白露(太陽黄経165°)
11日 新月●
17日 敬老の日
19日 月の近くに木星が見える
20日 上弦(半月)
23日: 秋分の日.秋分(太陽黄経180°)
24日: 金星が最大光度(明け方東)
25日: 中秋の名月
27日: 満月○
30日: 水星が東方最大離角(夕方西)
水星: 夕焼けの西空の中に見えるが、低いため見つけにくい。
金星: 夜明け前の東空に昇って、明けの明星として見える。
火星: 夜中の日付が変わる前に東空に昇ってくる赤い星。
木星: 夕方の南西の空に一番星として見えるが低い。
土星: 見かけ上、太陽の方向になっているのでしばらくは見えない。

次回も、お楽しみに

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