天文セミナー 第121回

『ギリシャ神話』『岩倉具視』



ギリシャ神話

 「ギリシャ神話ってとても面白いですね」、とは多くの人から聞く言葉です。「ところが、あまりにも登場人物や出来事が多くて、特にカタカナの名前には閉口させられます」という方に出会います。そうです。ギリシャ神話は、やたらに多くの、そしてそれぞれが複雑に絡まりあった物語なのですね。
 ところで、ギリシャ神話というと、天文好きな方は必ず「星座」に思いを馳せるのです。木星の4個の衛星を望遠鏡で初めて観察したのは、ガリレオ・ガリレイでした。そして彼は、その衛星に自分のパトロンであったメディチ家に敬意を表わすためメディチ衛星と名付けようとしたのでした。しかし、ガリレイと同じように木星を観測していたマリウスが提案したガリレオ衛星と呼ばれるようになりました。そして、これらの衛星にはイオ、エウロペ、カリスト、ガニメデと名前が付けられました。これらは、いずれもギリシャ神話の主神ゼウスが愛した女性や少年たちの名前です。この4個の衛星の名前の由来を知るだけでも、現在の西欧諸国の文化がギリシャ文化、特にギリシャ神話に深く関わっているかを理解できると思うのです。
 宇宙創生の物語としては「旧約聖書」の「創世記」が最もよく知られていますが、ギリシャ神話を書き残したとして最もよく知られているのはヘシオドス。彼が書き残した「神統記」に依ると、最初に「カオス=混沌」が生まれ、次に「ガイア」と「タルタロス」と「エロス」が生まれたとされています。これらから、さらに多くの神々が生まれ、多くの系譜が発生して、ギリシャ神話の基が作られていくのです。そして、最も有名なのが、トロイア戦争を記述したホメロスの「イリアス」と「オデッセイア」。多くの神々が、トロイを巡って長年戦いを続けるのでした。多くの物語が錯綜し、絡み合って現在まで読み継がれて来たのがギリシャ神話。それを背景にあるのがギリシャの文化。ルネッサンスを契機に花開くのがギリシャ・ローマ文化です。その一端を夜空に留めたのが現在使われている88個の星座ですね。夜空に残された世界文化遺産なのです。夜空を大切にしたいものです。ホンダ自動車のオデッセイはオデッセイアに、そして同じホンダ車エリシオンもギリシャ神話の極楽浄土に由来するそうです。



岩倉具視

 岩倉具視といえば、明治維新を遂行した公卿として多くの人に知られています。公武合体を唱え孝明天皇の妹である和宮を徳川幕府の十四代将軍・徳川家茂に嫁がせる事を計画し、さらに当時の征韓論に反対して西郷隆盛を政府の要職から外す切っ掛けを作ったとされていますね。ところが、この岩倉具視は明治4年に廃藩置県という大変革を成し遂げた4ヶ月あと、明治新政府の事実上の首班として、当時の主だったメンバーを率いて欧米視察に出かけたのです。アメリカでは熱烈な歓迎を受け、イギリスでは世界の工場ともいえる産業の発達に目を見張り、フランスでやドイツではその底力に驚愕して帰国したのでした。ところで、この視察団が日本にもたらした自然科学面での影響も非常に大きく、西洋の学問が実証や実験を重視することを受けて、多くの機材を購入し持ち帰ったのでした。
 私が、東京大学東京天文台に在職中、古びた1台の屈折望遠鏡がありました。口径は8インチ(20cm)。赤道儀の架台に載せられていました。大きな目盛りと重い錘を持つ如何にも古びた機械装置でしたが、そこには「トロートン&スミス」「ロンドン」と記載された銘板が留めつけられていました。この望遠鏡こそ、この岩倉具視欧米視察団が購入し持ち帰ったものでした。1970年代後半まで、この望遠鏡は望遠鏡の光学系は北極の移動を観測する極望遠鏡として、また架台部分は口径30cmの天体写真用レンズを載せて天体写真の撮影に使用されました。しかし、この望遠鏡も観測技術の近代化には付いて行けず、遂にリタイアーして東京上野公園にある国立科学博物館で展示され、往時を偲ぶ文化遺産として残されています。そして、この望遠鏡を製作した会社と同じイギリスの「グラブ & パーソンズ」社が製作したのが現在国立天文台岡山天体物理観測所の口径188cm反射望遠鏡なのです。現在では、国内最大の座を他に譲りましたが、長い間東洋最大口径の天体望遠鏡として多くの天体を観測し、日本の天文学の基礎と発展を支え続けて来たのです。



2007年7月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2007年7月の星空です。

夏の星たちがよく見えています。
梅雨の晴れ間には、もれなく星空を楽しみましょう。
特に南の空のさそり座付近は、今の内に見ておきましょう。

天文カレンダー 惑星たち
2日: 金星の近くに土星が見える
7日: 七夕.小暑(太陽黄経105°)
地球が最も太陽から離れる(遠日点)
8日 下弦(半月)
11日 プレアデス星団(すばる)が月に隠される
 午前3時頃から東の空(双眼鏡での観察が最適)
12日 金星が最大光度(マイナス4.5等)
14日 新月●
16日: 海の日
17日: 月の近くに土星と金星が見える(夕方、西)
20日: 水星が西方最大離角(明け方、東)
 この頃、一晩で惑星をすべて見るチャンス
22日: 上弦(半月)
23日: 大暑(太陽黄経120°)
30日: 満月○
水星: 20日が西方最大離角。夜明け前の東北東の空に見えます。
金星: 夕方の西の空に明るく輝いています。土星との接近に注目。
火星: おひつじ座のところで赤く輝いています。午前2時頃には東の空に見えます。
木星: へびつかい座の足元で輝いています。望遠鏡での観望好期。
土星: 夕方の西の空に見えます。金星との位置変化を追うのも良いでしょう。

次回も、お楽しみに

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