天文セミナー 第119回

『ホトトギス』『彗星の尾』



ホトトギス

  目には青葉 山ホトトギス 初かつお

 江戸時代に歌われ、江戸っ子気質をあらわすと言われている狂歌でしょう。ホトトギスは、初夏の風物の一つとして多くの人に親しまれていますが、一方では他の鳥の巣に自分の卵を托す托卵という習性があることからあまり好まないという人もあるようです。
 1970年代後半、完成したばかりの木曽観測所で観測に明け暮れしていた頃、遠く近くで鳴くホトトギスの声をしばしば耳にしたものです。ある日の早朝、観測を終えて宿舎に帰る道すがら、足元になにやら影のようなものがくっ付いてくるのに気付きました。どうやらそれは自分の影のようです。西向きに歩いていたので振り返ると、東空低くちょうど木曽駒ケ岳の上空に一際明るく金星が懸かっていました。最大光度の頃だったので金星の強い光が自分の影を地上に落としていたのでした。ホトトギスの鳴き声を聞くたびに、この時の情景が瞼に浮かぶのです。さて、このホトトギスに托して発行されたのが正岡子規に依る文芸誌「ホトトギス」。そして、肺結核で、何度も喀血を繰り返した正岡子規の最後の言葉とも言われているのが「鳴いて血を吐くホトトギス」。「鳴いて血を・・・」では、俳句として未完成です。どうしても上の句が知りたくて堪りませんでした。。あるとき、愛媛県松山市を訪ねる機会があり、正岡子規を記念して建設された「子規記念館」に立ち寄りました。そこには多くの関係資料が展示されていましたが、「鳴いて血を吐くホトトギス」の上の句が見つかりません。学芸員の人に尋ねたのですがどうも不明の様子。残念ながら引き下がったのでした。
 ホトトギスの鳴き声が山々にこだまする頃になると、海岸には潮干狩りを楽しむ人々の姿を見ることができます。毎年、4月から5月に掛けの大潮の時には、大勢の人が打ちそろって潮干狩りに出かけます。これも、引き潮が大きな浅瀬を作るからです。
 月が我々に及ぼしている数々の影響の中で、最も顕著なのが潮の満ち干でしょう。そして、人の生死にも深く関わっていると古来言い伝えられてきました。外洋に面した場所ではあまり目立たぬかもしれませんが、内海では干満の現象を強く体験できるのです。そして、「月の引力の見える町」というキャッチフレーズも生まれるのです。


彗星の尾

 今年、2007年1月から2月にかけて、2006年8月7日にオーストラリアのマックノート氏によって17等級でへびつかい座に発見されたマックノート彗星(C/2006P1)が大きな姿を我々に見せてくれました。太陽に最も近づく近日点通過の1月13日頃には?12等級くらいまで明るくなるだろうとの予報が出され、多くの彗星愛好者の期待を集めました。読者の中にも、大きな期待をもって待ち続けた方があったでしょう。
 佐治天文台でも、大きくなったこの彗星を観測しようと手具脛引いて待ち構え、地平線から立ち上るようにみえる扇型の尾を撮影することに成功しました。しかし、北半球に於いては、残念ながらその全容を見ることはできず、愛好者の中には南半球のオーストラリアまで出かけて観測した人もあったようです。南半球で撮影された写真を見ると大きく広がった巨大な尾。あたかも扇を開いてかざしているようなすがたでした。そして、さらにこの彗星は白昼、太陽が輝く青空に白く輝いて観測されたのでした。巨大な尾は、反太陽の方向に直線状に延びたタイプIのガスの尾と、幾く筋もの線状にのびたタイプIIのダストの尾がはっきりと見て取れます。幾く筋もの線状に見える尾は、彗星の核から同時に放出されたシンクロニックバンドと言われるもの、そして尾を形成する固体の物質の大きさと太陽風とに関わるシンダインと呼ばれる分布の、それぞれが示す形状なのです。
 さらに、白昼の青空に白く輝く姿は、まさしく前代未聞と言っても言い過ぎではないかもしれません。私が、白昼の彗星として覚えているのは、1965年の池谷・関彗星。当時の東京天文台乗鞍コロナ観測所のコロナグラフによって、太陽のすぐ傍を通り過ぎていく姿でした。大きく湾曲した尾、太陽に絡みつくような印象を持ったことでした。
 彗星。この不思議なもの。一体、何を我々に教え、訴えているのでしょう。今日も、彗星観測者や彗星捜索者は、いずこからやって来るかわからぬ天来の客を待ち望んでいるのです。



2007年5月の星空

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2007年5月の星空です。

星空は、春の星たちでいっぱいです。

天文カレンダー 惑星たち
2日: 満月○
3日: 憲法記念日
4日 みどりの日
5日 こどもの日
月の近くに木星が見える
6日 立夏(太陽黄経45°)
この頃みずがめ座流星群が多く見られる(明け方)
10日 下弦(半月)
17日: 新月●
20日: 月の近くに金星が見える(夕方、西)
21日: 小満(太陽黄経60°)
22日: 月の近くに土星が見える
24日: 上弦(半月)
水星: 月末のころに夕暮れの西空に見える
金星: 夕方の西空で見える一番星で、夕暮れ時の高さは今月が最もに高い
火星: 夜明け前に南東の空に見える赤い星
木星: 夜遅くに東空に昇るとても明るい星
土星: 少し西よりの空に見えるようになってきてもうすぐ見ごろが終わる

次回も、お楽しみに

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