天文セミナー 第113回

『朔旦冬至』『日照権』



朔旦冬至

 11月に入ったばかりなのに冬至とは、気の早いものと思われるでしょうね。そうです、冬至は現在では12月の21日頃に決まっていて、今年2006年は12月22日です。この日は、太陽の地平線からの高度が最も低く、したがって昼間の時間が最も短い日として知られていますね。現在ほど高度な精密観測ができなかった昔。昔と言っても明治以前の頃のことですが、当時使われていた暦は太陰太陽暦。月の満ち欠けを基準にして、太陽の位置関係を考えに入れた暦でした。この暦の作成に当たっていたのが、幕府天文方。当時の天文学の権威でした。幕末になると、当時の江戸浅草に天文台を設けて、日夜天体の観測に励んだのでした。その天文方の中で最も傑出した人物が高橋至時。この高橋至時の門下で活躍したのが9月に登場した伊能忠敬でした。
 さて、この当時、暦を作成するとき最も重視したのが冬至でした。それは、太陽の地平線からの高度が最も低くなる日には、地上に立てた棒の影が最も長くなります。影の長短が最も分かりやすいのは、影の長さが最も長い日、つまり冬至の日であるからなのです。
 そして、このころの暦は朔=新月から数え始めることに決まっていて、さらに冬至は11月と決められていたのです。11月の朔の日、つまり11月1日が冬至になれば最も簡単に暦の日取りを決めることができることになるのでした。こうして、11月1日の冬至のことを朔旦冬至と呼ぶ習わしが始まったのでした。
 東西南北を決めるとき、現在では北極星や北極近くを回る周極星を使うことが多いのですが江戸時代にも同じように北極星が使われました。しかし、北極星も不動ではないため観測は容易ではありませんでした。そこで使われたのが、太陽が真南に来るとき、つまり南中を挟んで午前と午後に地上に立てた棒の影の長さが等しくなった時、その影の上端を結んで東西方向を、そしてその東西線の2分の1の点と棒を立てた所を結んで南北線を決定したと考えられています。これも、やはり棒の影の長い冬至の頃が最も有効でした。日時計の原理が重要な役割を果たしていたことが証明される事実です。この原理は、遙か昔のイタリア・ポンペイの遺跡からの出土品にも見ることができ、西暦79年のベスビオ火山噴火より前に使われていたことを証明するものでした。当時の太陽の日周運動に頼っていた生活が目に浮かぶようですね。


日照権

 日照権。何となく聞いたことがあるような言葉ですね。1972(昭和47)年6月27日違法建築の隣家によって日照を奪われた問題で、最高裁は「日照権と通風権が法的に保護するのに値する」という初めての判決を行いました。それ以来、日照権が確立し、法的な保護が与えられるようになりったとの事です。そして、この判決が出された日、6月27日を日照権の日として、憲法25条で保証する健康で文化的な生活を営む為に太陽の光を享受する権利を守ろうと決められたのでした。
 さて、この日照権に関わるのは当然ながら、太陽の高度ですね。太陽の位置によって地上に投げかけられる影の方向と長さは異なります。したがって、日照権で問題にされるのは1日の間にどれだけの時間太陽の光を受けられるか、言い換えると1日に何時間日陰になるかという問題です。1965年代(昭和40年代)の建築基準法(?)には、日陰に関するような取り決めは全くありませんでした。市役所など地方自治体では、大変困惑してついに天文関係者なら判るのではないだろうかと、当時の東京天文台に聞き合わせが殺到しました。この問題は、太陽の地平高度が時間と共にどう変化するかということを解決すれば良いことになります。天文学では、よく半日周弧と呼ぶ曲線を使います。これは、天体が日周運動で移動するときに描く曲線のことで、半日、つまり地平線から出現して真南に来るまでの運動を表わす曲線で、天体の緯度と観察地の緯度に関わります。この曲線に沿って運動する天体が地上に投げかける影、太陽の場合では日の影が作る曲線となります。もちろん、影を作る棒の長さや建物の高さによって影の長さは違いますが太陽の地平線からの高度角がわかれば簡単に影の長さを求めることができますね。
 こうして、日照権に関わる「日の影曲線」が当時の建築基準法に関わる参考資料に加えられることになりました。マンションの上層階などの北側が斜めにカットされているのは、この日照権に関わる処置なのです。そして、日照にもっとも大きく関係するのは、やはり太陽の地平高度が最も低い冬至の頃なのです。



2006年11月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2006年11月の星空です。

秋の星座でいっぱいです。
天の川もよく見えますよ。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 文化の日
5日 満月○
7日 立冬(太陽黄経225°)
9日: 水星の太陽面通過が見られる
13日: 下弦(半月)
21日: 新月●
22日: )小雪(太陽黄経240°)
23日: 勤労感謝の日
25日: 水星が西方最大離角(明け方、東)
28日: 上弦(半月)
水星: 下旬頃が観察のチャンス! 25日前後の日の出30分前の東南東をチェック!
金星: 夕方の西南西の空にいるが、低空のためしばらく観察はむずかしい。
火星: 夜明け前の東南東の空にいるが、低空のためしばらく観察はむずかしい。
木星: 22日に見かけ上、太陽の反対側となる「合」のため、見えない。
土星: 夜中に東の空から昇ってくる。夜明けに近い頃が高度も高く観察には良い。

次回も、お楽しみに

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