天文セミナー 第109回

『てんびん座』『冥王星』



てんびん座

 日本の7月は、ちょうど梅雨時。毎日、うっとうしい日が続きます。それでも、梅雨の晴れ間の夜空に見る星々の光は、一時の気持ちの安らぎをもたらします。降雨によって空気中の埃が洗い流され、星の光を妨げるものがなくなり、透明度が増したからです。
 以前にも書きましたが、木曽の山中の観測所で梅雨の晴れ間に見た”かんむり座”のこじんまりとした星の並びに感動したことがあります。あまり明るくはない星たちが作る”夜空のネックレス”梅雨空の憂鬱さを一瞬にして打ち消してくれました。そして、星空への一種の憧れとも言うような感情が沸々として湧き上がってきたのです。目を南の空に転じて見ましょう。そこには春の星座”おとめ座”を追っかけるように”てんびん座”が懸かっています。黄道12星座として知られるこの星座、春と夏の中間であたかも夏の到来を告げる前奏曲のように感じることがあります。さそり座の西、おとめ座の東で、逆向きの”く”の字の格好に見ることができます。
 てんびん座という名前は、今から3千年から4千年ほど前、秋分の日の太陽がこの星座にあったことから付けられた名前といわれています。春分と秋分の日は、ちょうど昼夜が等しくなることから天秤が水平になることイメージして作られたのでしょう。しかし、現在の秋分の日の太陽は、お隣のおとめ座にあります。これは、地球の首振り運動、つまり歳差現象によって天球の座標が移動した結果です。
 16世紀から17世紀初めのイギリスの有名な劇作家・ウイリアム・シェイクスピアの戯曲に「夏の夜の夢」という作品があります。1595年から1596年に書かれたと考えられています。その、第二幕第一場、アテネ近郊の森の中。「恋の三色スミレ」の汁で、いたずらが始まる場面に、「その必中の矢が狙うのは、西方の玉座につかれている美しい処女王であった」という台詞(小田島雄志訳・白水社)があります。この芝居は、当時盛んだった”夏至祭”を念頭にして書かれたといわれています。そして夏至の太陽はふたご座。上弦の月がてんびん座にあれば、月の弓につがえた矢が指し狙うのはおとめ座。そこには先月登場の”スピカ”が輝いています。シェイクスピアは星座の知識も豊富だったのでしょうか。梅雨の晴れ間の一時、夜空を仰いで古典文学にふけるのも如何でしょう。これこそ、天の文学=天文学の一種かもしれませんね。


冥王星

 水金地火木土天海冥。小学校の高学年で習う太陽系の惑星を、太陽に近い順に並べたものですね。そして、毎日、何気なく使っている曜日、つまり七曜はこの惑星の名前に由来することは一目でわかりますね。そうです、昔の人は地球は動かないと感じていて、天球が1日に1回回転すると考えました。天動説です。そして、太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星、を並べて曜日に当てはめたのでした。そして、その時までは土星が太陽系の最も遠くにあると考えられていました。1781年にイギリスの天文学者、ウイリアム・ハーシェルが土星の外側に天王星を発見、1846年には海王星がルベリエ、アダムス、ガルレの3人の天文学者によって発見されました。こうして、太陽系がどんどん大きく広がって来たのでした。そして、1930年に海王星の外側にも1個の天体が、アメリカのフラッグスタッフにあるローエル天文台のトンボウによって発見され、黄泉の国の王”PLUTOにちなんでPLUTOと名づけられました。この名前はローエル天文台の創始者、パーシバル・ローエルの頭文字でもあったのです。この天体の和名を提案したのは星の文学者として有名な故・野尻抱影氏でした。こうして、新しい惑星に”冥王星”と言う和名がつけられたのです。そして、この冥王星という名前は日本だけではなく中国や韓国などの漢字の国でも使われています。
 さて、この冥王星は太陽系の果てを運動する惑星だと長い間考えられていましたが、その軌道が他の惑星に比べて大きく異なった歪な形であることなどから、性質が違うのではないかという天文学者もありました。1992年になると、この冥王星よりさらに遠くを運動する天体が発見されました。そしてそれ以来数百に上る、冥王星以遠の軌道を運動する天体が発見されて来ました。太陽系が大きく広がったのでした。
 有名な作曲家、ホルストが書いた組曲が「惑星」。作曲は冥王星が発見される前のことで当然ながら冥王星はありません。もし彼が新しく「惑星」を書くと、どんな惑星が含まれるのでしょうね。そして、この冥王星がちょうど真夜中に見えるのが今月です。



2006年7月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2006年7月の星空です。

夏の星たちでいっぱいになってきました。
今年の7月7日は満月に近いため、月明かりで
天の川を楽しむのは難しいでしょう。
旧暦の7月7日ですと、ばっちり楽しめます

天文カレンダー 惑星たち
2日: 半夏生(太陽黄経100°)
4日: 上弦(半月)
6日: 月の近くに木星が見える
7日: 小暑(太陽黄経105°).七夕
11日: 満月
17日: 海の日
18日: 下弦(半月)
20日: 夏の土用の入り(太陽黄経117°)
23日: 大暑(太陽黄経120°)
30日: この頃、やぎ座流星群が多く見られる
31日: 新月
水星: 西の夕空で最初の数日のみ見え、その後は見かけ上太陽に近づくため見えない
金星: 夜明け前の東の空でとても明るく見える。「明けの明星」とも言う
火星: 夕方の西空の低いところに見える。望遠鏡での観望はむずかしい
木星: 夕方は南の空に見え、日が変わるころ沈む。まだ望遠鏡による観望ができる
土星: 夕方の西空の低いところに見える。望遠鏡での観望はむずかしい

次回も、お楽しみに

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