天文セミナー 第108回

『赤道地帯での星座早見』『おとめ座α星・スピカ』



赤道地帯での星座早見

 今から30年ほど前、インドネシアに行った時の事です。北斗七星が北の地平線に低く斗を下向きにして見えていました。そして、振り返って南を見ると、憧れの南十字座の星たちがやはり地平線近くに懸かっていて、とても感動したことを覚えています。それは、ちょうど春のお彼岸の頃のことでした。もし、皆さんの手元に「星座早見」があれば試して見てください。この北斗七星と南十字座はほとんど同じ季節に最も見やすくなるのです。 6月に入ると、日本はそろそろ梅雨の気配が感じられてきます。夕方の北天には、先月に登場した北斗七星が斗を下向きにして北極の上に懸かっています。半年前には、この斗は上向きで地平線近くに見えていたのに、と季節の変化の速さに驚かされますね。そうです、このように地平線近で海の水を北斗の斗(升)で汲み上げ6月から7月の梅雨の季節に天からこぼすのだ、と覚えると梅雨時の雨を素直に受け止めることができるというものですね。そして、この梅雨空の上で北の空には北斗七星が、そして南の空には南十字座がそれぞれ光っていることを思い出してみてはどうでしょう。

 北斗七星も南十字座の星たちも、地球の自転の表れで東から西に向かって1日に1回回転します。日本などでは、星たちが東から昇るときも西の地平線に沈むときも、地平線に対して斜めになっていますね。しかし、地球の赤道付近では地平線に対してほとんど垂直に上り、垂直に沈みます。ちょうど車の両輪が車軸に対して垂直に回転しているのを見るのと同じように見えるのです。やはり、星空は広く大きいものだということを強く実感することができるのです。ところで、星見に欠かせないのが星座早見ですね。ある人が赤道地帯で使えるような星座早見を作りたいと考えました。しかし、いくら試してもどうしても作ることができませんでした。その理由は、回転軸が南北に貫き巻物のようになってしまい星座盤を南北の極点を中心に回転させることが不可能になるからです。星座早見は赤道地方では作ることができません。皆さんも考えて見てください。


おとめ座α星・スピカ

 6月の夕方、南の空に目を向けると青白く輝く1等星が見つかります。おとめ座のα(アルファ)星スピカです。日本では、青白い輝きから”真珠星”と呼ばれてきました。そしておなじみのギリシャ神話では麦の穂を持つデメテルと言う農業の女神とも、またはそのデメテルの娘ペルセポネとも、あるいは正義の女神アストラエアの姿とも言われるのがおとめ座。その女神が持つ”ムギの穂”がスピカであるとされています。
 天球で太陽が通る道筋を黄道、月が通る道筋のことを白道と呼びますね。ところで、この黄道上に、このおとめ座のα星・スピカが位置しています。黄道上にあると移動してくる月によって覆い隠されることがあります。この現象の事を月による恒星(惑星)の掩蔽とか星食と呼んで月の軌道を詳しく調べる時の観測手段として重要視されてきました。今からおよそ60年ほど前のこと。それまでは、月によって恒星が隠される瞬間を眼視観測で捕らえ、ストップウオッチなどで時刻を観測していました。この観測法では、観測者の個人差が大きく現れるので何か個人差の現れない方法はないかと捜し求めていました。ちょうどその頃、光を電流に変えるような技術と方法が見つかりました。その技術と手段は、光電子増倍管(ホトマルチプライアー)を使って、月が星を隠すときの光の量の変化を時刻と共に観測しようと言うものでした。この、光電子倍増管が使われ始めた頃、ちょうどスピカが月によって隠される現象があることが判りました。早速、この方法が試されることになったのでした。当時の東京天文台で試験観測が行われ見事に隠される瞬間を10分の1秒以上の精度で観測したのでした。こうして始まったのが光電子倍増管による個人差のない観測で、以後長い間観測の主要手段でした。
 さて、今年1月22日に西日本ではこのスピカが月によって隠される現象が起きて観測されました。そして、同じように6月7日にも、今度はほとんど日本国中で見られるのです。何しろスピカは1等星。この1等星が1瞬にして消え、また月の背後から現れてくるのです。ぜひ見てみたいものですね。



2006年6月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2006年6月の星空です。

春の星たちが西よりに見られるようになって来ました。
東の空には早くも夏の星たちが見え始めています。
真夜中には、夏の天の川も楽しむことができます。

天文カレンダー 惑星たち
1日: 月の近くに土星が見える
4日: 上弦(半月)
6日: 芒種(太陽黄経75°)
9日: 月の近くに木星が見える
10日: 時の記念日
11日: 入梅(太陽黄経80°)
12日: 満月
21日: 小満(太陽黄経60°)
27日: 新月
水星: 21日に東方最大離角(太陽からの角度が大きい)で観察好期、中〜下旬の夕方西空
金星: 明けの明星として、夜明け前の東の空で明るく輝く。
火星: 夕方の西空で見える。18日に見かけ上、土星と近づいて見える。
木星: 一番星として見えてくる。望遠鏡での観察に良い。
土星: 夕方の西空で見える。18日に火星と並んで見える。

次回も、お楽しみに

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