天文セミナー 第105回

『太陽の輪』『神社仏閣の向きは?』



太陽の輪

 3月の声を聞くと、大気は潤いを増し、其処此処に春の息吹を感じ始めます。夜空も、心なしかしっとりと温かさを深めてきます。日没後の夕方の西空には、地平線から大きく延びた舌状の淡い光、黄道光を見ることができます。もっとも、この黄道光は大変淡いので、人工の灯火があり夜空が明るくなった現在の日本では中々見る機会がないでしょう。
 オーストラリアや南米チリ、さらにアメリカ南部の砂漠地帯、そしてアフリカのサバンナ地帯では、天の川がもう1つできたのではないかと驚いた経験があります。テロの暴動で有名になった、インドネシアのバリ島でのことですが、ちょうど春分の日に島全体の灯火が消され、夜空一面が星に埋められてしまうように見られることがあります。そんなときに、バリ島に滞在していました。深夜になり人っ子1人居なくなった海岸に出ると、天を西から東まで一周するような淡い光の帯が見えました。そして、天頂の一箇所だけがやや膨らんで、しかも明るいのです。言うまでもなく、黄道光と対日照でした。しばし、息を呑むような感じで見とれていたのです。ところで、この黄道光や対日照として見える現象の原因は何でしょう。太陽系の空間には多くの微小天体が運動しています。これらの微小天体が黄道面に集積し、太陽の光を反射して見えるということが判っています。そして、その微小天体は彗星の構成物質である微小な固体のチリが太陽系の黄道近くに集まっている証拠で、この固体のチリが黄道光の原因物質であると言われてきました。しかし、研究者の中には彗星が太陽系空間に撒き散らす固体のチリの量からは、この黄道光の明るさを説明することができないと考え、他の物質の可能性を考え始めた人たちがいます。この研究者たちの考えは、最近大きな成果を挙げ続けている小惑星、とくに微小な小惑星に原因を求めています。小惑星は、幾つかの惑星が衝突を繰り返して、現在の状態になったと考えられています。その衝突の際にできた微小天体が、太陽の強い引力によって太陽の方へと引き寄せられた結果だと言うわけです。そして、黄道光を構成する物質は、太陽の熱によって絶えず蒸発し続けるので、常に供給され続けなくては黄道光としては光らなくなってしまうと考えられています。どうやら黄道光の元になる物質は、彗星と微小小惑星が供給源のようです。遠くから、特に赤外線で太陽系を見たとき、この黄道光が輪のように見えるかもしれませんね。


神社仏閣の向きは?

 年末年始には日本中の神社仏閣が年始詣での人で賑わいます。参拝客が恭しく詣でるこの習慣は古来からの伝承でしょうか。ところで、この神社仏閣の本殿や拝殿、そして本堂の向きに注意して参拝している人たちがどれほど居られるのでしょう。私は、いつもこのことが気になって仕方がありませんでした。そして、いわゆる日本古来の神々を祀る神社の殆どは東向きに、そして皇室に関わりがある神社は南向きに鎮座されていることに気付きました。また、お寺の本堂はも南向きと東向きが多いように感じています。なぜでしょう。この背景には、中国の孔子に始まる儒教の教えがあるのではないか、と考え始めたのです。
 孔子が語って、弟子が書き残したのが「論語」。「子曰く」、で始まる有名な書物ですね。日本でも先人が教養を高めるために長い間読み継がれてきた書物です。この中に、北辰は自らは動かなくても周りの星たちは、自分を中心にして絶えず回っている、人も徳をもって人に接すると、このように人は自ずから集まってくる、という一節があります。ここに書かれたのは、人の道ではありましょうが、北辰、つまり天の北極点が総ての中心であるという考えでした。
 この北極点、現在では北極星が近くに見えますが、孔子の時代つまり今から2500年ほど前には、北極星と言われるような星はありません。したがって北辰とは、北極星ではなく天の北極点(空間)だったことになります。そして、この北極点こそ宇宙の中心と考えられたのでした。背中に北極を背負い鎮座する神や仏。これこそ、宇宙の支配者と考え多くの祈りが捧げられたのではないでしょうか。そして、北極を背にして左手の方向が東、つまり太陽の昇る方向で上座です。こう考えるとき、神社仏閣の拝殿や本道の向きに納得することができようと言うものではありませんか。神社やお寺に詣でるとき、ぜひ一度は確かめてみられては如何でしょう。



2006年3月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2006年3月の星空です。

頭の真上から西空には冬の星たち、東の空には
春の星たちが見えています。
確実に冬から春へと季節は移り変わっていますね。

天文カレンダー 惑星たち
3日: ひなまつり
5日: 月の近くにすばる(プレアデス星団)が見える
6日: 啓蟄(太陽黄経345°)
月の近くに火星が見える
7日: 上弦(半月)
10日: 月の近くに土星が見える
13日: 水星が内合(太陽と地球の間で観察できない
15日: 満月
20日: 月の近くに木星が見える
21日: 春分の日
23日: 下弦(半月)
25日: 金星が西方最大離角(明け方.東)
29日: アフリカ〜中央アジアで
皆既日食(日本では見られません)
水星: 13日に内合で観察不可
金星: 明けの明星として観察好期
火星: 観測好期
木星: 明け方東の空
土星: 観察好期

次回も、お楽しみに

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