天文セミナー 第104回

『イトカワとはやぶさ』『美術館の絵』



イトカワとはやぶさ

 2003年5月9日に、当時の文部省宇宙科学研究所(現在の宇宙航空開発機構宇宙科学研究本部)の鹿児島県内之浦にある実験場から小惑星糸川(25413)Itokawaに向けて打ち上げられたのが「はやぶさ=MUSES-C(ミューゼス(C)」でした。この「はやぶさ」が、小惑星Itokawaに接近し、表面の物質を採取して地球に持ち帰る、というサンプルリターン計画です。計画が成功すると、太陽系の生まれたときの状態や、その後の進化の様子を知る上で大きな成果が期待されています。さて、昨年この「はやぶさ」がItokawaに接近して撮影して地上に送ってきた写真によると、大きさは600mX300mほどで、ジャガイモのような形に例えられています。そして、表面には大小のクレーター、穴ぼこが見られましたが、今までにも小惑星にはこのようなクレーターがあることは知られていました。このクレーターが作られたのは、小さな物質、言い換えると小惑星よりもっと小さい無数の天体が太陽系の中を運動していて、それらが小惑星に衝突した証拠であろうと考えられています。また、最近になって月の表面の数々のクレーターが、やはり同じように小さな天体が衝突してできたと国立天文台の研究者が報告しています。
 私が、国立天文台で仕事をしていた頃、つまり1980年前後のことですが、小惑星の大きさと数の分布を調べていました。その結果は、大きさと数の間には2.5倍という関係があることを見つけました。そして、地球上の物質、特に岩などはやはり同じように2.5倍という関係があることを衝突の物理実験を行っていた研究者が見つけました。こうして、小惑星は幾つかのやや大きい天体に小さい天体が衝突した結果、破壊されて多数の小惑星が生まれたことが知られました。
 太陽系の、特に地球型と呼ばれる惑星には、どれもクレーターがあることが知られていますが、これらは総て太陽系が誕生して以来多数の衝突を繰り返してきた証拠なのです。 言い換えると、太陽系は衝突によって成長に進化してきたことになるのです。今夜も、夜空のどこかに流星を見るかもしれません。これも、地球と小天体の衝突の現場なのです。
 「はやぶさ」のもたらす成果を早く知りたいものですね。


美術館の絵

 昨年の初秋、ある美術館で開かれていた「ミレー、コロー、バルビゾンの巨星たち」というタイトルの絵画展を見てきました。そこに展示されていた絵画のいずれもが近代日本のいわゆる西洋画のルーツになっていて、この時代に続くのがいわゆる印象派の絵画です。19世紀から20世紀に制作された絵画で、中には私にもなじみ深い作家の絵があり、実物に触れる喜びに包まれました。会場を進むうちに、ふと目に付いたのが、いずれも農作業を終えて家路につこうとする前の一時を描いた2枚の絵。黄昏の西空には日没後の残光が茜色を見せ、三日月がそろそろ光を増そうとする情景です。ところがこの三日月の欠けた方向がちょうど正反対でした。しかもこの2枚の絵が並べて展示されていたので、強い印象を受けました。なぜ、2人の作者は三日月の欠けた方向を反対向きに書いたのでしょう。北半球のフランスはパリの近郊で描かれているにもかかわらず、です。考えた結果は、1人は自然の現象に忠実に描くこと、つまりしっかりと残したスケッチをによって自分の思いを表現し、もう1人は見た情況を頭に刻み込んで帰宅後にアトリエで制作したのではないかということでした。2作品とも、すばらしい作品で、何時までも脳裏に深く残るような印象深いものだっただけに不思議な思いで帰宅したのです。帰宅後、計算で調べたところ、正しい方向が欠けた月が描かれた作品は1889年の9月か10月の月末のパリの郊外での夕刻であろうと推測したのです。同じような思いをしたことが過去にも数回以上あり、天文学的な手法で解析すると、意外にも制作の場所や年月日までも推測することが可能です。また、記録に残るような天文現象があった時など、絵の作家、つまり画家がその現象を絵の一部分に書き残すようなことがあるようです。残された絵の中に、一寸でもそのような箇所を見つけることによって、描かれた絵の場所や年月日、さらに背景や作者の心情までも推測できるのです。天文学の別な面での喜びかも知れませんね。



2006年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2006年2月の星空です。

冬の星たちが真っ盛りです。オリオン座を中心にして
まわりの星座をたどってみましょう。
東の空には、早くも春の星たちが昇ってきました。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 節分
4日: 立春(太陽黄経315°)
5日: 上弦
月の近くに火星が見える
6日: 月の近くにすばる(プレアデス星団)が見える
11日: 建国記念の日
月の近くに土星が見える
13日: 満月
16日: この頃から、火星の近くにすばる(プレアデス星団)が見える(〜2/20)
17日: 金星が最大光度(明け方、東)
19日: 雨水(太陽黄経330°)
20日: 月の近くに木星が見える
21日: 下弦
24日: 水星が東方最大離角(夕方、西)
25日: 月の近くに金星が見える(明け方、東)
28日: 新月
水星: 24日に東方最大離角(夕方、西)で観察好期
金星: 明けの明星として、中旬以降観察好期
火星: 観測好期
木星: 明け方東の空
土星: 観察好期

次回も、お楽しみに

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