天文セミナー 第98回

『暦表時と力学時』『地球は丸い』



暦表時と力学時

 先月は暦と季節の進み方に差があって、その原因は海の水と海底との摩擦によると説明しました。今月も、やはり暦と時刻のお話です。世界中の標準時になるのはイギリスのグリニッジ天文台のエアリー子午環の中心に決められている経度0度の線(本初子午線)が基準です。この本初子午線を基準にして表すのがグリニッジ標準時、別な呼び方で世界時と言います。現在、世界共通の時刻制として使われ、特に天文学などのように国境に無関係な時刻が必要な学問や研究、そして高速で移動する航空機の乗務員などで使われています。したがって、天文学では新しい発見や研究の成果は必ず世界時で発表する決まりになっています。ところが、地球の自転速度が不変ではないことが判り、昔の天文現象の時刻と一致しなくなる恐れが出てきたため、天文現象と使用すべき暦の差を計算してその結果を1960年から暦表時という方法で表すことになりました。一方、原子の放射振動数がきわめて一定であることを利用して、きわめて精密な時計が作られました。原子時計です。この時計の示す時刻を国際原子時と呼び、この時計が刻む時刻の1秒の長さは暦表時の1秒と等しくなるように定めてあります。先述の暦表時は天体を観測して初めてその時の時刻が分かるので、前もって時刻を知ることができません。そこで、暦表時の代わりに国際原子時が使われるように決められました。さらに、天体力学の理論に使われるのが力学時で、太陽系力学時と地球力学時と呼ばれる時刻制があります。地球の1自転の周期の86400分の1が1秒と決められて以来長く使用されて来ましたが、地球の自転の変化が見つかり、ついに原子の振動を利用した時刻制が使われるようになって、精度はいよいよ高くなり、その結果が各種の通信機器や情報機器の発展に大きく寄与しているのです。


地球は丸い

 地球は丸い、と言うと、何を今さらと思われるでしょうね。佐治天文台が提唱して、スターウイークのイベントとして実施されたのが、「地球を測る」でした。全国の多くの方に参加して貰い、地球の大きさを求めました。方法は至って簡単で、北極星の高度を測り、その結果を緯度の違う観測点の値と比較するのでした。こうして得られた結果が集計されると、意外に実際の値に近い値が求められました。エジプト時代のエラストテネスが使った方法と原理的には同じ方法でした。観察に参加した人は、地球の丸さと大きさを実感したことでしょう。
 昔、まだ小学生であった頃、先生が地球が丸いことは水平線の向こうに遠ざかる船を見ていると、先ず船体が見えなくなり、次第に煙突が見えなくなることから分かる、と教えて呉れました。しかし、この事実を確かめることはできませんでした。瀬戸内海沿岸に住む者には、水平線がなかったのです。狭い瀬戸内海は、目の前には対岸があったのです。成長して、太平洋の岸辺等のように遠くまで見晴らせる海岸でも確かめようとしましたが、海上の「もや」などに妨げられ水平線は確認することができず、したがって遠ざかる船が下の方から見えなくなるような体験はありませんでした。
 さて、飛行機で南北に旅をする機会が多くなると星好きのものには地球の丸いことを実感するチャンスと考えました。日本を離れて南へ進むとき、今まで見えなかった南の星座が現れて来ます。平面だと決して起きないことが実際に起こっているのでした。
 日本国内では、鳥取県の日本海沿岸が体験の絶好の場所でしょう。鳥取県の日本海沿岸に沿って東西に延びるのが国道9号線。波打ち際の砂浜に沿ってほぼ100km続きます。そして、その間にはいくつかの峠があり、道はアップダウンを繰り返します。夜道では、日本海で漁をする漁船の漁り火が水平線に平行に連なることになります。砂浜近くでは見えなかった漁船の漁り火が、峠では見えてくるのです。わずか数十mのアップダウンにより漁り火が見え隠れするのです。地球が丸いことを実感させてくれるのでした。



2005年8月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2005年8月の星空です。
夏の大三角が頭の真上あたりに見えるようになりました。
夕方西空には、金星と木星も見ることができます。

天文カレンダー 惑星たち
5日: 新月
7日: 立秋(太陽黄経135°)
8日: 月の近くに金星が見える
11日: 旧暦の七夕
12日: ペルセウス座流星群が極大
13日: 上弦
20日: 満月
23日: 処暑(太陽黄経150°)
24日: 水星が西方最大離角
28日: 下弦
水星: 下旬は観察好期(明け方、東)
金星: 観察可能(夕方、西)
火星: 真夜中前に東空
木星: 夕方西空
土星: 観察不適

次回も、お楽しみに

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