天文セミナー 第87回

『二百十日』『西方浄土』



二百十日

 二百十日も事なく過ぎて。 昔からの言い伝えで、立春から数えて210日目に当たる頃、大風、今で言う台風が日本に接近したり、上陸したりして農作物に大きな被害が出た事から、このころには気象に十分気を付けるようにとの言い伝えです。ところで、現在では台風は気象衛星に依る宇宙からの観測態勢が整い、あらかじめ予想される進路や特徴が報道されるので、多くの場合は大過なく過ごせるようになりました。何気なく見ているテレビの天気予報ですが、時々刻々変化している気象状況を捉えて、受信し、解析する努力が、画面の背後に隠されているのです。


倒れた桜の木

台風18号は、日本各地に大きな被害をもたらしました。
さじアストロパークの敷地内でも、桜の木などが
風で倒れてしまいました。

 もう二十数年前になりますが、東京天文台に在職中の頃の事です。東京天文台の付属観測所が埼玉県の西部、堂平山にありました。標高はおよそ875m。眼下に、関東平野が一望されます。眼下の鳩山村(当時)に、銀色に輝くパラボラの反射鏡が建設されました。
この施設は「地球観測所」。何を観測するのか不思議な名前でした。堂平観測所とはお隣同士だったので、早速見学させて頂きました。高速で西から東へ運動する人工衛星、さらにいつも同じ方向に見えている静止衛星。これらの人工衛星からの電波を受信するのが、銀色に輝くパラボラアンテナでした。受信された電波は、即座に解析されます。静止衛星からの信号であれば、例えば地上の気象状況などを、ほとんどリアルタイムで見ることができたのでした。そして、スペースシャトルの空間速度は毎秒8km、静止衛星では毎秒3km。それらを、追跡する高精度のアンテナが銀色に輝いていたのです。
 今年の二百十日は、8月31日。もう過ぎ去ったと、安心は禁物。9月1日は防災の日。そして、二百二十日の言い伝えもあるのですから。


西方浄土

 今年の秋分の日は9月23日。太陽が真東から昇り、真西に沈む日として、またお彼岸の中日として知られています。春分と共に天文学ではとても重要な日でもあるのです。春分は、太陽が天の赤道を南から北へ通過する日で、秋分は北から南へと通過する日です。
 天文学で、最も重要なことの1つに、天体の座標を決めるという事があります。この時に使われる座標の原点が太陽の中心が天の赤道に一致した場所と時刻なのです。一致した場所を春分点、一致した時の時刻が春分時。そして、その時刻を含む日が春分の日と言う訳なのです。ところで、何故春分とか秋分と言うのでしょうか。その語源は、春の昼夜平分の日。昼夜平、を省略して春分の日。同じように、秋分の日なのです。



 一方、春分の日と秋分の日は、いずれもお彼岸の中日。お彼岸の意味は何なのでしょう。
京都府の加茂町には浄瑠璃寺と言う古くから残されたお寺があります。また、10円銅貨に刻まれた宇治市の平等院、さらに兵庫県小野市には浄土寺があります。特に平等院は多くの方にもおなじみですね。学生時代の修学旅行で参観した方も多いのではないでしょうか。これらに寺院のご本尊は総て阿弥陀如来。来世の守護仏として、昔から信仰の対象として崇められてきました。そして、この阿弥陀如来は総て東向きで、参拝する人は西向きに拝みます。さらに、阿弥陀様の祀られた本堂の前には大きな池があるのも共通しています。この池の東側から礼拝するのが本来の姿でしょう。池の東側から、池の彼方の岸、つまり彼岸に祀られた阿弥陀様を拝むのでしょう。そして、春分と秋分の日には、阿弥陀様の背後に夕日が沈みます。お彼岸の中日。まさに光背を背負った阿弥陀様と西方浄土が出現するのです。



2004年9月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2004年9月の星空です。

夏の星座が夜半前には西に傾き、
秋の星座が見ごろとなってきました。

天文カレンダー 惑星たち
7日: 下弦.白露
9日: 水星が西方最大離角
14日: 新月
22日: 上弦
23日: 秋分
28日: 満月.中秋の名月
水星: 9日に西方最大離角
明け方東の空
金星: 明け方の東空、観察好期
火星: 観望不適
木星: 観望不適
土星: 明け方の東空

次回も、お楽しみに

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