天文セミナー 第85回

『伊能忠敬』『時刻と時間』



伊能忠敬

 この天文セミナーを始めて、速いもので7年を経過してしまいました。私の勝手なお喋りを長い間ご愛読頂いたことを感謝いたします。
 さて、今月は日本地図を制作した人として知られる、伊能忠敬に登場してもらいましょう。幕末の天文暦学者として名高い伊能忠敬は、18歳で佐原の伊能家の養子となりました。その後、宿願だった天文暦学を学ぶため1795年(寛政7年)50歳で江戸深川に移り住み、19歳も年下の幕府天文方高橋至時の門下に入りました。そして、緯度1度の距離を知りたいと思い、当時の浅草天文台と深川の間の緯度差と距離を測りたいと、師の至時に相談しました。高橋至時は、浅草と深川ではあまりにも近距離なので、当時の蝦夷(現在の北海道)の測量を勧めたのです。こうして、伊能忠敬の多年にわたる測量の第一歩が踏み出されたのでした。


日本列島

南北に長い(東西にも長いですが・・・)姿です。

 当時の天文測量は、大きな分度器のような四分儀を使って北極星など星の地平高度を測り、横型の四分儀を使って目的物の方位を測るのです。しかし、最も苦労したのは経度の決定でした。経度の差は天体の南中時刻の差として求められるのですが、正確な時刻を保持できるような時計が必要です。そこで使われたのが、一種の振り子時計でした。
 基準として決めた場所での時刻を、正確に保持しながら、各地を測量しながら移動するわけです。当時の、あまり正確とはいえない時計を使っての経度観測には大変な苦労が伴ったことでしょう。こうして完成したのが伊能図と呼ばれる日本地図であり、世界に誇れる日本の科学技術の成果だったのです。この伊能忠敬の業績を讃えて小惑星9255番に発見者ヴァン・ホウテン夫妻がInoutadatakaと命名しました。日本各地の主要な街道や海岸線に沿って、今も残されているのが伊能忠敬の足跡です。一度尋ねてみたいものですね。


時刻と時間

 いつも何気なく使っているのが時間という言葉。電車や列車が発車する時間は?などと使いますね。ところで時間ってなんでしょう。考えてみたことがありますか?。一度、考えてみることにしましょう。先ず、時間とは「ある瞬間から経過した時刻の積み重ね」で、時刻とは「瞬間」のことと覚えましょう。したがって、電車や列車が発車するのは「時刻」で、発車してからの経過が「時間」で表されることになります。


水晶の原石

 1950年代のことです。NHKのテレビ番組に「私の秘密」という人気番組がありました。ある日突然、この番組に当時の東京天文台の研究者が登場したのです。そして、私は地球の自転速度が遅くなっているのを見つけました、と秘密を告白したのです。当時の時計は現在の精度には遠く及びませんでしたが、東京天文台は日本の「時」の管理者として最も高精度の時計を設置していました。当時の高精度の時計は、現在私たちが日常使っている水晶時計で、原子時計などは研究され始めたばかりの頃です。この水晶時計が刻む「時」が地球の自転速度が遅くなって行くことを教えてくれたのでした。
 そして、さらに原子時計が標準時計に使用され精度が向上し、自転速度の遅れもはっきりとしてきました。毎によっては、年末か6月末に閏秒として1分間が61秒にされることがありますが、これは地球の自転速度が遅くなったので、それを調整する目的で挿入されるのです。
 地球の自転速度の遅れは、太陽や惑星による潮汐力が主な原因ですが、「月」にもこの効果が現れていて月は1年におよそ3.8cmづつ遠ざかっていると言われています。地球が誕生した頃の1日の長さはどれほどだったのでしょうね。



2004年7月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2004年7月の星空です。

春の星座真っ盛りですが、東の空には
早くも夏の星たちが見え始めました。

天文カレンダー 惑星たち
2日: 満月
5日: 地球が遠日点を通過
7日: 小暑
9日: 下弦、土星が太陽の向こう側
15日: 金星が最大光度
17日: 新月
22日: 大暑
25日: 上弦
27日: 水星が太陽から最も離れる
水星: 夕方の西空、低い。11日火星と接近。27日東方最大離角(27度)。
金星: 明け方の東空。15日に最大光度(マイナス4.5等)
火星: 夕方の西空低い。11日に水星と接近。
木星: 夕方の西空。夜半前に沈む
土星: 観望不適。9日に太陽の向こう側

次回も、お楽しみに

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