天文セミナー 第84回

『金星の太陽面通過』『振り子の等時性』



金星の太陽面通過

 1874年(明治7年)12月9日。世界の科学先進国から、金星の太陽面通過を観測観測しようと多数の天文学者が日本を訪れました。当時の天文学は、いわゆる位置天文学が主流で、現在のような天体物理学はまだまだ未発達の状態でした。何しろ、1874年と言えば東京大学(1877年=明治10年創立)の本郷構内に理学部付属観象台として東京天文台が産声を上げたのが1878年=明治11年のこと。わが国は、西欧諸国に追いつけとばかりに、新知識を貪欲に求めていた頃のことでした。
 当時、太陽までの距離を正確に求め、太陽系の運動を理解するための観測と研究が大きな問題でした。そこで、取り上げられたのが、金星の太陽面通過の現象でした。
 地球より太陽に近い、内惑星は太陽面を通過する現象があることが知られていますね。水星は去年、2003年に太陽面を通過したので、覚えている方も多いでしょう。この、水星の太陽面通過は5月5日と11月9日の前後に、また金星は6月7日と12月9日の前後に起きます。この珍しい金星の太陽面通過が今月8日に日本各地で観測されるのです。


金星の太陽面通過の観測記念碑

横浜、神戸、長崎には、それぞれ観測を記念した
石碑が設置されています。

 ところで、1874年に世界各地から日本を訪れた観測隊は、横浜、神戸、長崎などに観測地を決め観測に当たりました。しかし、観測地の経緯度や、正確な時刻を決めるために多くの努力を必要としたのです。経緯度は、天文測量術を使いますが時刻が分からなくては精度は上がりません。当時敷設されたばかりの海底電信網を利用して、ヨウロッパの天文台が発信する時報を受信して時刻を決め、経緯度が決定されたのです。金星の太陽面通過がもたらしたのは、まさに「科学黒船の来航」だったのでした。この時の金星の太陽面通過観測記念碑が先述の3都市に建立されていて往時を忍ばせてくれます。


振り子の等時性

 6月10日は時の記念日ですね。日本書紀には斉明天皇6年夏五月に皇太子(後の天智天皇)初めて漏刻造ると、また天智天皇10年夏卯月に漏刻を新しき台に置くと書かれています。そして、この記録を元に、決められたのが時の記念日です。
 イタリアの伝記作者、ヴィヴィアーニの書いた記述に、「ある日、ピサの寺院で、ガリレオは天井から下がって揺れているランプを見つめていた。・・・その揺れは振れる度に振幅は減少するにも関わらず、一方の端から他の端まで揺れて行くにはいつも同じだけ時間がかかるように思えた。」と書いています。振り子の等時性と呼ばれる現象の発見です。
 当時医学生だったガリレオ(1564年2月15日、イタリアのピサ生まれ)は、ランプの振動に要する時間を計ろうとしたのですが、腕時計などという道具は無かったので、自分の脈拍を数え振動の時間を確かめたのでした。


大正時代の振り子時計(佐治村・前田正一氏所有)

今も現役で動いているゼンマイ式の振り子時計です。

 こうして発見された振り子の等時性が、その後振り子時計として多くの人に時を知らせたのでした。しかし、この振り子時計は動力として錘が使われていたのでその錘を何らかの方法で巻き上げなくてはならず、また持ち運びがとても大変でした。この不便を解消しようとして考えられたのがゼンマイ仕掛けの方法でした。ゼンマイが巻かれた状態から解けてゆくときの力を利用して、時計の機械を動かそうと言うのです。このゼンマイ式の時計が発明されたことは「時を計る」上での大きなエポックになったのです。航海に必要な時刻の保持に使われるのがクロノメーターと呼ばれる精密時計で、この名前はギリシャ神話に見られる「時の神クロノス」に由来しますが、このクロノメーターが金星の太陽面通過などの現象の観測に大きな貢献をしたのでした。



2004年6月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2004年6月の星空です。

春の星座真っ盛りですが、東の空には
早くも夏の星たちが見え始めました。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 満月
5日: 芒種
8日: 金星が太陽の手前側(太陽面通過)
10日: 下弦
18日: 新月
19日: 水星が太陽の向こう側
21日: 夏至
26日: 上弦
29日: 金星が留
水星: 観望不適
金星: 夕方の西空から、明け方の東空へ。8日に太陽面通過(14時から日没まで)
火星: 夕方の西空低い、観望不適
木星: 夕方南中
土星: 夕方の西空、夜半前には沈む

次回も、お楽しみに

天文セミナーに戻る