天文セミナー 第83回

『太陽に塵の環』『2個の彗星』



太陽に塵の環

 太陽系の9個の惑星の中で最も人気があるのは土星のようです。佐治天文台へ来られる多くの参観者の方々に見てもらう天体で、例外なく「ワー」と言って歓声を上げられるのが「環」を持つ土星だからです。ところで、土星以外にも輪があることが知られたのは、天王星が恒星を隠す食、掩蔽の観測からでした。それ以来、海王星と木星にも環があることが知られました。
 1983年のことです。6月11日に、インドネシアで皆既日食が見られ、日本からも大勢の日食観測者が現地を訪ね、快晴の空に繰り広げられる幻想的な現象に堪能して帰国しました。この日食を、気球を使って赤外線で観測しようと試みた研究所がありました。当時の、東京大学宇宙航空研究所でした。この研究所はその後、文部省宇宙研究所と改組され、さらに独立行政法人宇宙開発研究機構へと改組されましたが。


黄道光(ハワイ島・ハレポハクにて)

画面下やや左から右上に延びているのが黄道光です。
天の川は画面下やや右から左上に見えており、
画面中央やや上でお互いが交差しています。

 さて、このときの観測計画は大きな気球を成層圏にまで昇らせ、皆既食の間に太陽の周辺を東西方向に赤外線で観測しようと言う計画でした。観測は成功し、得られたデータからは意外な結果が求まったのです。それは、太陽の半径の4倍ほどのところにダスト、つまり固体の塵が集積していることを示唆していました。太陽にも「環」が発見されたのでした。ところで、先月に書きました「黄道光」の正体は、どのような生涯をすごすのでしょうか。実はこの黄道光の正体である固体の塵が、太陽に引き寄せられて太陽の半径の4倍ほどのところに一時的に集積していたのです。その塵の一部が、偽コロナとなって皆既日食のときの見えているのです。1991年の、メキシコの日食の時にも観測が試みられましたが、悪天候に妨げられて不成功に終わったのでしたが。


2個の彗星

 最近、太陽系の話題が豊富で、特に地球近傍や太陽系の最も外側に多くの天体が発見されています。その中に、とても小さく暗いので今までの捜索方法ではとても見つからなかっただろうと思われるような彗星や、また太陽に非常に接近するような彗星、クロイツ群と名付けられている彗星のメンバーのものも多数あります。新しい観測機材が開発された結果と言えるでしょう。
 ところで、すでに天文雑誌などで大きく報道されているように今月末に、2個の彗星が夕方の西空で明るくなり、肉眼でも十分楽しめる事が分かりました。1972年のこと。当時の環境庁が主唱して行われたのが、ジャコビニ彗星に起因するジャコビニ流星群の出現に合わせての全国規模のライトダウン・キャンペーン、さらに1997年のヘール・ボップ彗星の出現に際して行われたのがヘール・ボップ彗星ライトダウン・キャンペーンでした。結果的には、ジャコビニ流星群の出現は不発に終わりましたが、ヘール・ボップ彗星は暗い夜空の下で多くの人を魅了したのでした。


ニートすい星(C/2001 Q4)

さじアストロパークでは、5月5日夕方
ニートすい星を確認できました。

 今月、夕方の西空に見られるのは、ニート彗星とリニアー彗星。ニート彗星は2001年8月24日に、リニアー彗星は2002年10月14日に、いずれも最新の観測機材を用いた観測チームによって発見されたのです。さて、この2個の彗星が、夕方の西空で肉眼で観望できるとなると、気になるのが地上の人工灯火です。誰でも、できるだけ暗い夜空で、幻想的な彗星の姿を見たいと思うでしょう。そこで、思い出すのが全国ライトダウンのキャンペーン。ぜひ、試みたいものですね。彗星の尾の正体は固体の塵を含みます。そして、その尾は黄道光との正体となり、やがて太陽の環。面白い循環ですね。



2004年5月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2004年5月の星空です。

北斗七星が、頭の真上あたりに見えます。
春の大曲線から、春の大三角をたどってみましょう。

天文カレンダー 惑星たち
2日: 金星最大光度
5日: 立夏、満月、木星が留、
皆既月食(月没帯食)
11日: 下弦
15日: 水星が太陽の西側で最大離角
18日: 金星が留
19日: 新月
21日: 小満、2個の彗星が夕方西空
27日: 上弦
水星: 明け方の東空、15日に太陽から最も離れる(26度)
金星: 宵の明星、光度マイナス4.5等
火星: 夕方の西空低くなる
木星: 夕方に南中、観望の好期
土星: 夕方の西空、25日に火星と接近

次回も、お楽しみに

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