天文セミナー 第76回

『中秋の名月と十三夜』『月の距離(レーザー測距)II』



中秋の名月と十三夜

 今年の中秋の名月は9月11日でした。もう過ぎてしまったのに、何を今更と思わないでください。日本人の繊細な感覚は、中秋の名月だけに止まらないのですから。
 ところで、半月のことをよく「弓張り月」と言います。例えば、「大和物語」に見える凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)が醍醐天皇へのお返しの歌として
奉った歌に
 照る月を 弓張りとしも 言うことは 山辺をさして 射(入)ればなりけり

 と言うのがあります。これなど、月を弓に見立てたとき、西に入る月の上側に欠け際があり、まさに上弦の月に相当します。上弦の月の言葉の由来ですね。


上弦の月

目で眺めるのもいいですが、上弦の頃に望遠鏡で見ると
ちょうど真横から光があたるので、でこぼこがよくわかります。

 さて、名月も過ぎましたが満月の別名を調べてみると「望月(もちづき)」、「三五月(もちづき、3x5=15)」。三五月と読ませているのは柿本人麻呂。「万葉集」巻2、挽歌196番に
  鏡成 雖見不厭 三五月之 益目頬染 所念之
  鏡なす 見れどもあかず 三五月の いやめずらしみ おもほしし
 と言う歌が残されています。
 満月はもとより、他の月の名前を幾つか拾って見ると、十六夜はいざよい、十七夜は立待ち月、十八夜は居待の月、十九夜を寝待の月と呼びます。さらに、旧暦の9月13日の月を十三夜。そして、満月を過ぎた十六夜以降の月は夜が明けても西空にまだ見えているので「有明の月」と呼ばれました。そして、今月の8日が十三夜に当たります。


月の距離(レーザー測距)U

 前回書きましたように、レーザー光線を使って月までの距離を詳しく観測しようという試みが先ず実行に移されたのは、アメリカのアリゾナにあるマクドナルド天文台でした。
 マクドナルド天文台の207cm反射望遠鏡の焦点位置に、レーザーの発生装置を設置し、主鏡から月に向かってレーザー光線を発射するのです。通常の望遠鏡とは逆の使用方法になるわけです。先ず、月まで届くような強力なレーザー光線を作ることが容易ではありませんでした。何しろ、発明され実用化されたといってもわずかな年月しか経ていない1970年代の初頭のことです。さらに、強力なレーザー光線は殺人光線とも呼ばれたこともあるくらいなのですから観測者の生命にも関わります。そして、望遠鏡の鏡にも重大な障害となるかもしれません。多くの未知の要素が潜んでいました。


堂平観測所に設置されていた月レーザー測距システム

大きいパラボラは直径3.6mの受信用金属鏡。
手前が発射用の望遠鏡。

 日本でも、この計画に当時の東京天文台が1970年代に月レーザー測距儀を開発し参加しました。埼玉県にあった堂平観測所で日夜観測のための努力が積み重ねられ、この結果月に向かって発射されたレーザー光線が月面に置かれた反射器によって反射された光を捉えることに成功したのです。光の粒子、つまりホトンの数で数えるほどの証拠でしたが観測は成功し、以後反射器が機能しなくなるまで続けられ、さらに人工衛星の軌道決定にも使われてきました。
 月までの距離が正確に判ると、月の運動に関する理論が一段と精度が増し、大陸移動の確証が得られることに繋がります。堂平観測所で使われたレーザーの発射機や受信用のパラボラアンテナは、用済みになったとはいえパラボラは現在ニュージーランドで南天の夜空に向かって活躍中です。




2003年10月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2003年10月の星空です。

夏の大三角が東の空になり、
秋の星がたくさん見えるようになりました。
火星もまだまだ見頃です。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 上弦
9日: 寒露(太陽黄経195度)
10日: 満月
 18日: 下弦
24日: 霜降(太陽黄経210度)
25日: 新月、水星が太陽の向こう側
26日: 土星が留
水星: 明け方の東空、25日に外合
金星: 夕方の西空、低い。
火星: 夜半前に南中、観望の最適期。
木星: 夜半過ぎに上る。
土星: 夜半前に上る。観望の好期になる。

次回も、お楽しみに

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