天文セミナー 第75回

『火星の大接近(II)』『月の距離(レーザー測距)I』



火星の大接近(II)

 先月の27日に地球に大接近した火星は、真夜中に南中し、真っ赤な不気味な色で輝いています。さそり座のα星アンタレスと明るさと色を競い合うように見えますね。そうです、アンタレスは火星と競い合うものと言う意味から付けられた名前なのです。火星の英語名はマース、そしてこの名前はローマ神話に登場する戦の神。ローマ神話の元になったギリシャ神話ではアレースでやはり戦の神でした。アンタレスという言葉を分解してみましょう。アンチ・アレース。アレースに対比するものとの意味が浮き出してきますね。
 アンタレスと言う名前はプトレオマイオス(トレミー)の時代に既に呼ばれていたそうです。さて、今年の火星大接近は、殆ど有史以来の大接近で真っ赤な光が夜空を焦がします。そうです、中国ではこの火星のことを「火」、「大火」などと呼びました。
 火星と、アンタレスは遠い昔からお互いにその色を競い合っていたことが証明されましたね。これは、アンタレスが太陽や惑星たちの通り道、黄道に近く、また地球に大接近するのは必ずさそり座かお隣のいて座に限られていたからです。


接近した火星

今回の大接近では、南の極冠が見えています。

 さそり座やいて座は、南の空にあるので日本などの北半球では観測の条件はあまりよくありません。そこで19世紀頃からは、火星の観測を南半球で行なわれるようになり、南アフリカのケープタウンにある天文台が大活躍をしたのでした。
 南の空に真っ赤に輝く火星を見て、宇宙人を思い、その宇宙人が作ったと思われていた運河を確認したいと活躍した観測者がいたことを改めて思い浮かべてはどうでしょう。


月の距離(レーザー測距)I

 国立天文台編纂の理科年表2003年版によると、月までの平均距離は384,400km。そして最も近いときには357108km、最も遠いときには406311kmになります。ところで、この距離はどうやって調べたのでしょうか?。最も簡単なのが地球上の2箇所で同時に月の位置を詳しく観測で調べ、その2箇所で観測した見かけの位置の差から距離を求めます。私たちが、両目で距離を知るのと同じ方法ですね。次に考えられたのが、月の運動を詳しく調べ、ケプラーの法則を利用して距離を求める方法でした。
 ところで、今ではすっかりお馴染みになったレーザー光線。盛り場などで、強烈な印象を多くの人たちに与える手段として用いられていますね。また、医学や測量の道具として、さらにカラオケやCD-ROMの読み出し装置として多くの方面で活躍しているのを目にすることがあります。このレーザーって何なのでしょう。レーザー光線と言うからには光であることは間違いありません。このレーザーの発見は意外に遅く、1958年にシャウローとタウンズが発表した理論によってアメリカで実現された周波数が一定で位相がそろい、優れた単色性と直進性を持った光のことです。エネルギーの密度が高いので遠距離の投射でも減衰が少ないなど優れた特徴を持っています。


堂平観測所に設置されていた月レーザー測距システム

大きいパラボラは直径3.6mの受信用金属鏡。
手前が発射用の望遠鏡。

 このレーザー光線を月に向けて発射し、月までの距離を求めようと計画されたのです。1969年のこと、アメリカのNASAが打ち上げたアポロ11号で、特殊なプリズムをセットした反射器が月面に置かれました。目的は地球上からレーザー光線を発射して、反射器で受け、地球に向けて送り返し、光の往復の時間から月までの距離が精密に判ることが期待されたからです。




2003年9月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2003年9月の星空です。

さそり座〜いて座がちょうど見頃です。
夏の大三角がよく見え、天の川も見頃です。
東の空には、火星が昇ってきました。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 上弦
8日: 白露(太陽黄経165度)
11日: 満月、中秋の名月。
水星が太陽のこちら側
 19日: 下弦、水星が留
23日: 秋分(太陽黄経180度)
26日: 新月
27日: 水星が太陽の西側で最も離れる
29日: 火星が留
水星: 11日内合、以後明け方の東空、27日太陽の西側で最大離角(17.87度)。
金星: 夕方の西空、低い。
火星: 観望の最適期、夜半に南中
木星: 明け方の東空、低い。
土星: 夜半前に上る。

次回も、お楽しみに

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