天文セミナー 第69回

『弥生三月』『地球を測る掩蔽(えんぺい)観測』



弥生三月

「願わくば 花の下にて春死なむ その如月の望月のころ」  西行法師
 西行法師の詠んだ短歌です。西行法師は、この詩の通り花、つまり桜の咲く頃、その生涯を終えたそうです。ところで、この短歌を読んで気になる所はありませんか?
 如月、今の常識では2月。その2月に桜が咲くとは、一寸変ですね。西行法師の時代は、当然ながら旧暦と呼ばれる太陰太陽暦が使用されていたのでした。したがって、冬は10月から12月まで、春は1月月から3月まで、夏は4月から6月まで、そして秋は7月から9月までとされていました。そして、もっとも大事な季節の目安になるのが二至二分。即ち、春分と秋分、そして夏至と冬至です。そして、どのような場合でも、冬至は11月、春分は2月、夏至は5月、そして秋分は8月とするように決められていたのでした。
 この規則を元に、西行法師の短歌を鑑賞してみるとき、桜の花が満開の春たけなわな頃の情景が目に浮かんでくるのです。


桜咲く

今も昔も、「日本の春」の風景です。


春の星空

春の夜の東の空です。
北東(左)には北斗七星、正面(東)にはしし座が昇ってきました。

 「霞み立つ 長き春日を子どもらと 手まりつきつつ今日もくらしつ」  良

 越後・出雲崎に生まれ、備中・玉島で学んだ禅僧・良寛が、越後に帰ってからの境地を詠んだとされる短歌です。備中玉島、現在の岡山県倉敷市玉島。境を区切るのは中国地方屈指の大河・高梁川。この川に掛かるのが霞橋。春先になると、あたかも霞みが掛かったかのように向こう岸は霞みます。そして、この頃になると夜空には春の星座が、遥かな宇宙に浮かぶ銀河を伴って懸かります。大気の動揺が少ないことが天文観測に要求される最も重要な要素です。夏や冬に比べ、絢爛さに乏しいのが春秋の夜空ですが、宇宙の深奥を探るには最適の季節なのです。


地球を測る掩蔽(えんぺい)観測

 人工衛星が打ち上げられ、地球物理学に貢献するようになるまで、地球の大きさについては多くの議論がありました。世界地図を広げてみると、まず海のほうが陸地の面積より大きいことに気付きます。地球の表面のおよそ70%が海だそうです。
 地球の大きさを求めるには、地球の形が詳しく分かっていなくてはなりません。昨年のスターウイークの統一テーマ「地球を測ろう」。これこそ地球の大きさや形を知る上でもっとも大切なことなのです。ところで、古文書を調べてみると「月星を犯す」と言う記事が目に止まります。これは、月が星を覆い隠したという事実を記録したもので、現在では掩蔽とか星食と呼ばれている現象です。言い換えると、日食の太陽を星に置き換えた現象なのです。日食に比べ、星の数は多く、従って月に覆い隠される機会もずっと多くなります。この現象を、離れた何箇所かで観測すると、観測地の距離が分かるのです。もっとも、精度を高めるには特別な観測機材により、地球上の経緯度がよく分かった場所での観測が求められてはいましたが。



掩蔽(えんぺい)

星食とも呼ばれます。
月が時間とともに星に近づいて、
やがて隠す様子がよくわかります。

 この理論を応用して、大陸間の距離、言い換えると地球の大きさを求めようとしたのです。この理論は日本人に依って発展され、太平洋の島伝いにアメリカ大陸まで伸ばされたのです。現在、日本の海上保安庁水路部は、3箇所の水路観測所で、晴れた夜毎に行っているのが、星食の観測。高精度での恒星の位置の決定と、月の軌道の高精度化が目標。これらは何れも、船舶の安全な航行を支援するため地球の大きさを測定しているのだと言っても過言ではないでしょう。




2003年3月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2003年3月の星空です。

冬の星たちが西の空になり、
春の星座たちがたくさん昇ってきました。。

天文カレンダー 惑星たち
3日: 新月
6日: 啓蟄(太陽黄経345度)
11日: 上弦
18日: 満月
21日: 春分(太陽黄経0度)
22日: 水星が太陽の向こう側
25日 下弦
水星: 明け方の東空低い。
金星: 明け方の東空低くなる。
火星: 夜半過ぎに上る
木星: 1晩中見える。観望の好期
土星: 夜半過ぎに沈む。

次回も、お楽しみに

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