天文セミナー 第68回

『人工衛星』『名付け親の楽しみ』



人工衛星

 先月述べたように、人工衛星が夜空を過ぎるようになると、多くの人々の関心が高まります。世間の関心とは別に、科学的な観測も重要な要素です。何しろ、人類史上初めての人工天体誕生なのですから。その軌道を詳しく解析し、地球の物理学をより発展させなくてはなりません。これが、国際地球観測年のもっとも重要なテーマなのですから。
 軌道を決定するためには、まず正確な時刻と人工衛星の場所が必要です。当時、時刻は東京天文台が管理し、実際の業務は通産省の電波研究所が行っていました。そして、時報は、いわゆるJJYと称される分秒報時。毎秒毎秒が短波に乗せられて発信され、独特のピッ、ピッと言う受信音で知らされるのです。場所は?というと、実際には星の位置を表す座標、赤経と赤緯が要求されるのですが、夕空で星がまだ見えない時刻では方位角と高度角を求めます。こうして軌道を決めるための観測値が得られるのですが、この観測をアメリカのスミソニアン天文台に置かれた世界の中央局で集計して解析します。


人工衛星の観測

岡山県金光町の私立金光学園天文部
(藤井永喜雄講師が指導)による
人工衛星の観測状況です(写真提供:金光学園天文部)

 ところが、この観測がとても大変でした。何しろ、予報は可能だといっても、予報の基礎になる観測の精度が良くないのです。そこで、世界中のアマチュア天文家に呼びかけて、人工衛星観測網、いわゆるネット・ワークが作られたのです。ネット・ワークを組織した班組織の構成員の数はおよそ10から15名。この人たちの観測から、人工衛星の軌道がある程度の精度で決められるようになったのでした。
 そして、この組織が一定の成果を挙げ解散するとき、当時のスミソニアン天文台の台長フォイップル博士は、各組織に対してそれぞれに感謝状を贈ったのでした。このホイップル博士こそ、彗星の正体は「汚れた雪だるま」と看破したその人だったのです。
 日本でもこの観測網に参加し、夜空を音もなく過ぎってゆく光の点を固唾を呑んで見つめ、星空に思いを翔けた人が大勢いたのでした。


名付け親の楽しみ

 英語の「God Father」。辞書を見ると、「名付け親。キリスト教で男の子の洗礼式でクリスチャン名をつける時、その子の将来の信仰に対しての保証をする役目を負う、男の名付け親。教父。そして、さらにはアメリカのマフィアの首領」と書かれています。キリストに対する信仰の保証人とマフィアの首領。なんとも不思議な組み合わせですね。
 そして、イギリスの文豪で劇作家のウイリアム・シェークスピアは彼の戯曲「恋の骨折り損」の第1幕第1場ナヴァール王宮の庭園の場でピーロンに「地上にあって天の光の名付け親、つまり星の1つ1つに名前を与える学者達にしても・・・・」と語らせています。
 星。ここでは恒星に初めて名前を付け始めたのは2世紀の天文学者プトレオマイオスでした。この名前は、長期間に渡り使われましたが17世紀の初めにバイエルが、さらに多くの星に名前を付けることを始めました。星の名付け親の始まりです。こうして、多くの星にも名前が付けられるようになり、現在では名前の付いた星は星の数ほどになりました。



小惑星帯

ほとんどの小惑星は、
火星の通り道と、木星の通り道の間にあります。

 佐治天文台は、すでに5個の小惑星の名付け親であり、さらに候補が3個。そして、今この文章を書いている私は87個の小惑星の名付け親であると同時に金星の2個のクレーターにも「奇稲田姫」と「カムイフチ」という名前を付けた名付け親です。
 3月の末。佐治天文台では「小惑星を探そう」というイベントを計画しています。新小惑星が発見されると、名前を提案する権利ができます。あなたも、星の名付け親になってみませんか。




2003年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2003年2月の星空です。

冬の星たちが早くも東の空に昇ってきました。

天文カレンダー 惑星たち
1日: 新月
2日: 木星が太陽の反対側、観望の好期
4日: 立春(太陽黄経315度)
水星が太陽の西側で最大離角
9日: 上弦
17日: 満月
19日: 雨水(太陽黄経330度)
22日 土星が太陽の反対側、観望の好期 
24日: 下弦
水星: 明け方の東南で4日に太陽の西側で最も離れる
金星: 明け方の東南の空、次第に見難くなる
火星: 夜明け前に上る
木星: 夜半に真南。観望の好期
土星: 夕方に真南。観望の好期

次回も、お楽しみに

天文セミナーに戻る