天文セミナー 第66回

『日有蝕尽之(日ハエ尽タリ)』『南極観測(IGY)』



日有蝕尽之(日ハエ尽タリ)

 「日ハエ尽タリ」。日本書紀の、推古天皇34年3月の項に見られる日本で最初の日食の記事です。そして、この記事の5日後に天皇は薨去、舒明天皇へと皇位が引き継がれることになるのです。なんとなく、不吉な予言を感じるのは私だけではないでしょう。
 シェイクスピアの戯曲「リア王」にも、「引き続いて起こった日月食は、不吉な前兆であったのだ」とリア王が独り言をつぶやきます。そして、シェイクスピアがこの戯曲を創作していた頃、当時のイギリスで実際に日月食が立て続けに見られていたのでした。
 天変地異を不吉の前兆と考えるのは、古今東西に共通のことなのかも知れませんね。


皆既日食と金環日食

月の位置によって太陽の隠れ方が変わります。

 ところで、今月4日、南アフリカで始まりインド洋を東に進みオーストラリア南部の南氷洋沿岸で終わる皆既日食があります。理科年表によると、この日食の時の太陽と月の視半径の差は僅かに8秒角。南オーストラリアの南氷洋の沿岸で見られる皆既の時間はおよそ30秒にしかなりません。
 6月には、サイパン島の隣テニアン島で近環日食がありました。この日食の時の太陽と月の視半径の差は18秒角。太陽の見かけの大きさの方が大きいので月の外縁を光り輝く太陽が取り囲む現象でした。今年は日食が地球上で2回ありましたが、いずれも太陽と月の見かけの大きさに殆ど差が無いほど微妙な状況でした。日本書紀では、この状況はどう記述されるのでしょう。


南極観測(IGY)

 今年も、南極観測のため隊員を乗せ砕氷艦「しらせ」が出かけました。1957年に始まったこの南極観測も随分と歴史を重ねたものですね。発足当時の苦労は、多くの物語や映像で語り継がれてきました。最も感動的だったのは「太郎、次郎物語」でしょう。観測の重要な役割を分担した犬の物語でした。
 発足当時の観測船は「宗谷丸」。戦前に就航した船で、この宗谷丸は南アフリカ・ケープタウン経由で昭和基地へと向かうのでした。そして、その途中には暴風圏と呼ばれる嵐の海が控えていて、ここでオリオン座流星群の出現が予想されていました。荒れ狂う海上の、しかも大きく揺れ動く船上で見た流星群の感動的だったことを観測隊員から聞いたのは、隊員が帰国してからのことでした。
 一昨年と昨年の2回、南アフリカのケープタウンを訪ね、そして今年の初めに南オーストラリアの南氷洋の沿岸に行く機会がありました。そのとき、目の前に大きく広がる南氷洋を見て思い出したのがこのときに聞いたオリオン座流星群のことでした。

 さて、上にも書きましたように4日の日没前には南オーストラリアの沿岸で、30秒間ほどの皆既日食が見られるのです。南氷洋に沈み行く皆既中の太陽。周縁に見られるコロナとプロミネンスが、南氷洋の海面に映えるでしょう。こうなると天空と海面との鏡像。上下2箇所の皆既日食。感動的な天体現象になるかもしれませんね。



2002年12月の星空

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2002年12月の星空です。

冬の星たちが早くも東の空に昇ってきました。

天文カレンダー 惑星たち
4日: 新月
5日: 木星が留
7日: 大雪、金星が最大光度
12日: 上弦
18日: 土星が太陽の反対側
20日: 満月
22日 冬至
26日: 水星が太陽の東で最大離角
27日 下弦
水星: 夕方の西空、26日に最大離角。
金星: 明け方の東空、7日最大光度4.7等
火星: 明け方の東空。
木星: 夜半に上る、5日に留
土星: 夜中見える、観望の好機、18日に衝。

次回も、お楽しみに

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