天文セミナー 第65回

『赤外線天文観測衛星IRAS』『北緯35度線』



赤外線天文観測衛星IRAS

  1983年に打ち上げられ、宇宙の知見に大きな貢献をしたのが赤外線天文観測衛星IRASです。この人工衛星IRAS(Infrared Astronomical Satellite)は1983年1月25日に軌道に乗せられ周期102.4分、近地点の高度856.6km、遠地点の高度883.6km、軌道の傾斜角は100.1度の、いわゆる極軌道を運動し、全天の赤外線源を探査するのが主目的でした。赤外線は、電気コタツでお馴染みの遠赤外線などを含み、電波と可視光との間の波長範囲にある電磁波で、比較的低温の物質が放射することが知られています。この赤外線を使って行う天文観測の目的は、可視光では見えていないような低温の天体を全天に渡って探査しようというもので、天体の進化と言う観点からはかなり初期の状態を探ることになるのでした。
 この衛星が打ち上げられると多くの期待が持たれたのですが、何しろ人工天体による赤外線の観測は世界で初めてのこと。多くの天文台に確認の依頼がありました。当時の東京天文台も例外ではありません。幾つかの観測が通報され、確認の観測を行っていました。


IRAS・荒貴・オルコックすい星

地球に接近し、星空の中をどんどん動いて行った様子が
とても印象的でした。

  その中で、薄明中の時間帯での特異小天体、具体的には太陽系の中を運動する小さい天体で地球に衝突する可能性のあるものの探査がありました。そして、このIRASが4月25日に移動中の天体を発見したのです。早速追跡観測が天文台へ依頼されてきました。
 ところが、5月4日の9時半、新潟のアラキ氏から、新彗星発見の情報が寄せられたのです。一方、国際天文学会からの電報が新彗星発見を連絡してきました。
 そして、結局、この3個の天体は同一であることが判明し、新彗星IRAS・荒貴・オルコックとして誕生したのです。人工天体による天然の天体の初めての発見でした。


北緯35度線

 日本の中央は、ほぼ東経135度、北緯35度だと言われます。そしてこの座標の交差する場所が兵庫県西脇市。「日本のへそ」と自称する都市が幾つかありますが、この西脇市もその中の1つでしょう。
 東京在住の時代。鳥取県佐治天文台には、飛行機を多用していました。羽田空港を離陸すると航空路は西に向かいます。やがて、東京の西部に差し掛かるころ眼下に多摩の台地が広がりその中に東京天文台三鷹のキャンパスを見つけることができます。飛行機の速度は毎時およそ900km。まもなく南アルプスの連山を見下ろす頃になると八ヶ岳の東麓にはこれも東京天文台の野辺山電波観測所のアンテナ群。目を西に向けると、木曽御岳を背景に白く見えるのは木曽観測所のシュミット望遠鏡のドーム。名古屋の市街地の北端を通過すると琵琶湖の西に、京都の東山に見えるのが京都大学の花山天文台のドーム。
 航空路はここからやや北に向きを変え、山陰路に沿って西進。その航空路の彼方には佐治村。そして佐治天文台のツインドームが光るのです。


北緯35度線

北緯35度線に沿うように、天文台があります。

 どうやら、航空機からの天文台めぐりになってしまいましたね。しかし、地図を広げて見るとこれらの天文台は、ほとんど北緯35度の緯度線に沿っていることに気づくでしょう。ちなみに、三鷹は北緯35度40分、野辺山は35度56分、木曽は35度48分、そして佐治天文台は35度20分。北緯35度付近での緯度1分はおよそ1.8km。佐治天文台と野辺山電波観測所の間の緯度差は36分。南北の距離にして、なんと65kmしか離れていないのです。 北緯35度。なんとなく不可思議な思いがしますね。



2002年11月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2002年11月の星空です。

夏から秋へと、星空も移り変わってきました。

天文カレンダー 惑星たち
6日: 新月
8日: 立冬
12日: 上弦
14日: 水星が太陽の向こう側
19日: 金星が留
20日 満月
22日: 小雪
28日 下弦
水星: 太陽の方向、見えない。
金星: 明け方の東空。
火星: 明け方の東空。
木星: 明け方に南中。
土星: 夜半に南中、観望の好機

次回も、お楽しみに

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