天文セミナー 第58回

『満天星の花』『分割された星座』



満天星の花

  この露地の あかるきは満天星の 咲きにける     水原秋桜子
 満天星。何と心地よい名前なのでしょうか。いかにも、夜空にひしめく様に輝いている星々を思い浮かばせます。正しくは、「どうだんつつじ」。
 つつじの花の咲くころになると、春の陽光が降り注ぎ野山も緑を増してきます。星々の輝きにももなんとなく潤いを感じ、しっとりと落ち着いた光を夜空から投げかけます。春の大曲線の出番です。夕方、東の空に斗を上に柄をピーント振り上げた北斗七星が勢い良く駆け上がってきます。その柄の曲線に沿って延長するとうしかい座のアークツルスへ、さらに延長するとおとめ座のスピカへと至ります。
 今年1月、南オーストラリアへ出かけました。南氷洋に面した小さな町で、人口およそ3000人。鯨の見物と「かき」の養殖が盛んな町でした。オーストラリアはちょうど真夏。日中の気温は40度にもなりますが、夜になると急に気温が低下して15度以下になることもありました。意外の寒さに、あわてて重ね着をして真夜中の晴れた夜空で仰いで見たのが、石炭袋を伴った「南十字座」。その北で真上の方向には「からす座」の台形がこじんまりと、そして「からす座」の台形の北の辺が指し示す方向に、日本で見る時の数倍の明るさで青白く輝くスピカがありました。スピカが見える頃の日本は春。空気中の湿度も高く、春霞に包まれ星々も潤みがちになりますが、乾燥大陸の南オーストラリアでは透明度の高い夜空で本来の光で輝いていました。


銘酒「満天星」(300ml)

地域限定の「青ボトル」です。

 佐治村の隣町、智頭町はこのどうだんつつじの栽培が盛んな町として知られています。そして、「満天星」と名づけられた銘酒が特産品の一つとして、さじアストロパーク内にあるふるさとペンション「コスモスの館」でも販売されているのです。もうお馴染みかもしれませんね。そして、この「どうだんつつじ」が満開になると、さながら枝全体に星がぶら下がったように見えるのです。佐治天文台の構内も、この「満天星」が咲き乱れ、そして夜空は満天の星で埋め尽くされます。


分割された星座

 「そこには大地あり天空あり海がある。疲れを知らぬ陽があり、満ち行く月、また天空を彩る星座がすべて描かれているーーーーすばる(プレアデス)に雨星(ヒアデス)、さらに力強いオリオン、また熊座・・・・(後略)」(松平千秋訳、岩波文庫)。ホメロス(紀元前9世紀頃)の作として知られるギリシャ最古の叙事詩「イリアス(英語読みではイリアッド)」の一節で、この物語はトロイア戦争をめぐる英雄たちの活躍を歌い上げた物語です。
 そして、この英雄たちを乗せたのが「アルゴ船(座)」でした。昔の星座絵を見ると、南の地平線近くに巨大な船が描かれていることに気づきます。これが、アルゴ座ですが、あまりにも大きく、ついに「とも(船尾)座」、「りゅうこつ(竜骨)座」、「らしんばん(羅針盤)座」、そして「ほ(帆)座」の4個に分割されてしまいました。
 とも座は、冬の天の川の中で大犬座の南、りゅうこつ座の主星はカノープスで全天で2番目に明るい星、らしんばん座は航海の方角を決めるための方位磁石、そしてほ座はいうまでもなく帆船の必需品である帆。ここで、アルゴ船とは、船足の速い船を現す言葉で、日本でも遣唐使を乗せた船が「速鳥(はやとり)」と名づけられた記録があるそうです(AD750年)。

アルゴ船のあたりの星空(ハワイ島にて)

日本では、水平線ギリギリに見えるカノープスも,
ここでは余裕で見ることができます。

 南の空に懸かる大きな星座なので、日本では全体を見ることはできませんが、南の国オーストラリアで仰ぎ見たとき、あまりの大きさにカノープスしか確認できなかったのが残念でした。



2002年4月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2002年4月の星空です。

冬の星座が西に大きく傾き、春の星座が多く見られるように
なってきました。4月下旬から5月中旬にかけて、
西の空に惑星が大集合します。

天文カレンダー 惑星たち
5日: 清明、下弦
7日: 水星が太陽の向こう側
(外合)
13日: 新月
20日 穀雨、上弦
27日: 満月
水星: 下旬以降、夕方の西空
金星: 夕方の西空
火星: 夕方の西空低い
木星: 夜半に沈む
土星: 夜半前に沈む

次回も、お楽しみに

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