鳥取市

天文セミナー第216回(2015年6月)「星の風土記」15.南方の国の物語3(南方宿(朱雀))登録日:

天文セミナー 第216回 『星の風土記』

15.南方の国の物語3(南方宿(朱雀))

 ふたご座の「井(せい)宿に続くのは「鬼:き」宿で、現在の「かに座」に当たります。

古代中国では、人間に宿る霊魂の不滅を信じていました。死後、人の精霊は二つに分かれ、陽の気である「魂:こん」は天に上り、陰の気である「魄:ぱく」は死後の肉体に籠もって地に止まるとしていました。天に上った魂を地上に呼び戻す行為を「招魂」と言います。

 「太平記」は、足利尊氏、新田義貞、楠木正成が活躍する南北朝時代の戦記物として知られます。その中で後醍醐天皇に関し、天皇は奈良県吉野山で1339年8月9日に病気になり8月16日に崩御されますが、その際「・・・玉骨はたとひ南山の苔に埋もるとも、魂魄は常に北けつ(皇居)の天を望まんと思う。・・」、つまり「自分の遺体は吉野に眠るとも、魂は京都の内裏に思いを寄せ続ける。」と遺言された、と記述されています。

 かに座の古代中国の名前は鬼宿で、かに座をしっかりと確認するのは月のない暗夜でないと無理かも知れません。4個の4等星η、θ、γ、δが歪な4角形を形作り、その4星から4本の取っ手が延びてちょうど二人で持つ輿(こし)のように感じ、そこの載せられているのは死体。これを輿鬼(よき)とよびます。そして、東北の星は馬を蓄えた者を、東南の星は兵を蓄えた者を、西南の星は織物を蓄えた者を、西北の星は金銭や宝玉を蓄えた者を司り、輿の中央の星(プレセペ星団)は輿の上に積み重なった死骸であって、葬式や神々の祭祀を司るとして、邪な陰謀をあばくことを司どるとされていました。「輿鬼」。二人で持つ輿、これは現在の「担架:たんか」と思えば良いのでしょう。

 このかに座の中央にあるプレセペ星団。古代から知られていたことは前述の通りですが、これを中国では「積屍気:せきしき」と呼んで、死体を積み上げた所から立ち上る気、つまり「鬼火」としてその燐光が見えているのだと言います。気味悪い名前で呼んではいますが、暗い夜空で見たときの上手い表現かも知れません。ギリシャの哲学者プラトンの一派は紀元前5世紀頃に、このかに座を人間の霊魂が天上へ出入りするための出入り口だ、と言っています。中国とギリシャ。遠く離れた地で、同じような見方、捕らえ方をしているのはこの星座の持つ特異な雰囲気だったのでしょうか。

 バビロニア王国時代の粘土板などにはすでに蟹の姿で描かれ、古代ギリシャの詩人アラトスの天文詩「ファイノメナ」(BC270)にも「かに座」の名前が見えるそうです。従って、中東では少なくも5000年の昔から親しまれて来た星座で、当然ながらプトレオマイオスの48星座の1つです。明るい星がないのにも関わらず、古代中国やギリシャでも、太陽の通り道の黄道12星座として親しまれ、重要視されたからでしょう。

 ところで、このかに座の学名Cancerは、日本人に限らず恐れられているガン(癌)の学名 Cancer と同じです。これは、女性の乳癌の形が蟹の甲羅に似ていることから付けられた名前で、もう一つの英語で蟹はCrabでドイツ語でもこの星座の名前も癌も同じKrebsクレブスです。東京の、「公益財団法人 がん研究会」の英語表記は Japanese Foundation For Cancer Research。そしてマークは、カニです。意外な感じを受けます。

 乳癌で思い出すのは、有吉佐和子の名著「花岡清州の妻」。華岡 青洲(はなおか せいしゅう、宝暦10年10月23日(1760年11月30日 - 天保6年10月2日(1835年11月21日))は、江戸時代の外科医ですが、小説の主役は母と妻。小説は、実記録を元に乳癌の手術を母と妻の葛藤として取り上げ、世界で初めて全身麻酔を用いた手術(乳癌手術)を成功させた人を描きます。この外科手術が大変な冒険だったこと、また家族の支えの大きかったことを、時代背景と共に描く名著です。

2015年6月の星空

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2015年6月の星空です

 6月になりました。宵の明星「金星」と木星がだんだんと接近していきます。「星空の中を惑う」惑星の姿を堪能してください。6月下旬には近くに月も見えますので、夕方の西の空がとても賑やかです。頭の真上から南の空には「春の大三角」。そして東の空には早くも「夏の大三角」が昇ってきました。少し夜更かしをすると、2つの大三角の競演を楽しむことができます。

次回も、お楽しみに

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