天文セミナー 第213回

『星の風土記』



12.東方の国の物語5(東方宿(蒼龍・青龍))

 心宿の東側が「箕:き」宿で現在のいて座がこれに相当します。南斗六星を含む星宿で、この南斗を農業で使う「箕:み」と見たのでしょう。現代の人には「箕」と言ってもほとんど理解されないでしょうが、機械化される前の農業には欠かせない道具でした。穀物を脱穀しその殻と実を別ける道具で、両手で箕を持ち、箕に脱穀した穀物を乗せて両手で上下に揺すり、その時に起きる風を利用して重い穀物と殻を選り分ける作業。この作業に使うのが今回の「箕」宿。星宿が作られ使用されていた時代、古代中国の「春秋戦国」時代にはすでにこの「箕」が使われていたことを示します。つまり、当時の中国では農業がとても重要視されていたことの現れなのでしょう。穀物の選別に使われるだけでなく、神への供物を載せる神座としても使われることもあったようで、箕は風を好む神で雨を好む神と並べて考えられるようですが、月がこの星宿に近づくと風が吹くと古典に見られ、一般にも言い伝えられていたようです。この風と箕の関係は深く、日本の民話にも箕を神の御霊が乗り移る器だと言い伝えられているようです。 

 この箕宿は現在の南斗六星ではなく、その西側のさそり座に近い方にある弓矢の下半分のγ、δ、ε、ηの4個の星が右に広がった台形(梯形)をしているのを箕と見たのだろうと言われています。ところで、江戸時代に日本で二十八宿に日本読みを付けたとき、この箕(:き)宿を「みぼし」と読んだとされています。

 日本の農業が現在ほどには機械化されていない頃の話です。稲作地帯に限らず、雑穀を栽培していてもその収穫は大変な労力を伴いました。先ず刈り取りは総て人力。鎌を手に田畑に降りて一握りずつ作物を刈り取ります。刈り取った作物は、ハゼと呼ぶ長い竿に掛けて天日で乾燥。乾燥させた作物は、千歯こぎまたは脱穀機で脱穀します。脱穀された穀物は作物の葉や細い茎と一緒です。これを分別する必要があって、手回しで風を送る唐箕と呼ばれる道具で分別します。今でも、民俗資料館などに残されていて誰でもが見学する事ができます。これは、今ここで取り上げている箕宿の箕とは構造が違って木製の機械。でも、風を使って穀物の軽重を分別します。葉や細い茎より穀物の方が重いのは当然です。軽いものは遠方へ飛ばされ、重い穀物だけが近くに残って収納されるのです。

 風と収穫物の軽重を巧みに使った古来からの道具です。この、手動の風力分別機がすでに二十八宿が作られた頃に使用されていたことを示す貴重な星宿と言えるのかも知れません。東アジアの農耕民族の素晴らしい知恵と工夫の記録でしょう。


2015年3月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2015年3月の星空です

3月になりました。1月から夕方西の空で輝いている「宵の明星」金星が、
日に日に高度が高くなり、明るさを増しているように感じます。
2月までは冬の星たちでいっぱいでしたが、いつの間にか
春の星たちもたくさん見られるようになりました。
北斗七星を使って、北極星をたどってみるのもいいですね。
頭の真上あたり木星が輝いています。
まわりの1等星たちを圧倒するほどですね。


次 回も、お楽しみに

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