天文セミナー 第206回

『星の風土記』



5.天の北国の物語3(玄武)

 先月に続き、天の北国の物語です。四方神の内北方を守のは玄武、亀と蛇が絡み合った姿で現される水の神です。日本でもよく聞きますように「亀は万年鶴は千年」とお目出度い印とされています。日本の昔話に「昔むかし浦島は 助けた亀に連れられて・・・」。おなじみの浦島太郎の物語です。ここで、亀が竜宮城へ浦島太郎を連れて行き、乙姫様が歓迎します。竜宮という黄泉の世界に行った浦島太郎が再び地上に帰って来ると言う物語で、読み下すと亀という黄泉返りの象徴によって地上のこの世界に甦って来たことを表しているのです。この浦島太郎のお話は、日本各地に伝えられていて日本人の心に深く浸透している物語です。特徴は、昔むかし、あるところに、で始まることで何時何処でという時期も場所も特定されていないことです。日本の伝説、昔話の特徴でしょう。

 また、落語に、お正月元旦に鶴と言う名の女中さんが敷石につまずいて門の傍に植えてある松に、間違ってお酢を掛けてしまい困惑しているとき、物わかりの良い主人が「鶴が松に巣を懸けた」と言って、少しも咎めず、反って慰めたと言う話があります。この亀。亀で先ず思い出すのは出雲大社の寺紋。よく見てください、亀甲紋です。出雲大社は亀甲の中に有の字が書かれています。このように亀は、めでたいことを現します。さらに、蛇です。星座の中にあるのが蛇遣い座。一匹の大蛇に跨がって蛇をつかんでいる姿で描かれています。ところで、この蛇遣いはギリシャ神話の医術の達人アスクレピオス。このアスクレピオスが蛇に跨がって蛇を自在に操っています。蛇はよく知られているように脱皮を繰り返し、冬眠して成長します。この甦りの話は、世界中に残されていて月の満ち欠けを甦りと見たり、中国では蝦蟇(がま)も月の中に住み甦りを繰り返す象徴のように考えられ、中国が打ち上げた月探査衛星が「嫦娥(じょうが)」、つまり「蝦蟇」と命名されました。

 北を守る玄武。亀も土中に潜り冬眠して年を越します。北方は寒く、総ての生き物たちは息を潜めて春を待ちます。春が来ると賑わうのが観光地。兵庫県北部但馬地方には有名な石灰洞があります。この石灰洞の名前が玄武洞。6角柱が整然と並ぶ様には驚かされます。この玄武岩は火山岩の一種で、柱状を示すことが多く地球内部のマントルが源で、6角柱として現れることから玄武岩と名付けられたそうです。玄武岩の命名の謂われが四方神の玄武にあるとは新しい発見ですね。

 ギリシャ神話の蛇遣い座。このアスクレピオスが描かれて居るのが、救急車の側面。街中をサイレンを鳴らしながら病院へと患者を運びます。救急救命の大切な役目。通行中の人や車両は道を空けて通りやすくします。この救急車のシンボルマークだけでなく、国連の機関WHO、国際保険機構のシンボルマークでもお馴染みです。

 鶴が松に酢(巣)を掛けた、これは瑞兆。と、主人は言いました。その鶴ではないでしょうが、木下順二の名作「鶴の恩返し」。日本民話の一つで、翁が罠にかかった一羽の鶴を助けた。ある雪の激しく降る夜、一人の美しい娘が老夫婦の家にやって来て道を誤ったので一晩泊めて下さいと言うので快く泊めてやった。雪は幾日も止まず、娘は老夫婦のところに泊まり夫婦の世話をしていた。「布を織りたい」と娘が言い、布を織る内に次第にやせ細って行った。鶴は自分の羽を抜いて布を織って、老夫婦に恩返しをした。この鶴ではないが、晩秋の夕方南の地平線すれすれに見える「鶴座」があります。南の魚座の南で二つの2等星は意外によく目立ちます。1960年代、九州の南端で、この鶴座を見たときは感激したものでした。


2014年8月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2014年8月の星空です

8月になりました。星空は夏の星たちでいっぱいです。
頭の真上から東寄りにかけて、夏の大三角が見えています。
ほぼ頭の真上の一番明るい星がこと座の1等星・ベガです。
南東側にはわし座の1等星・アルタイル、
北東側がはくちょう座の1等星・デネブです。
直角定規のような三角を結んでみてください。
南の空低いところにはさそり座の1等星・アンタレスがあります。
赤っぽい色もわかります。


次 回も、お楽しみに

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