天文セミナー 第151回

『日本の民間天文台(T)倉敷天文台』『日本の天文アマチュアの活躍(T)彗星観測』



日本の民間天文台(T)倉敷天文台

  明けましておめでとうございます。本年も、この天文セミナーを書き続けようと思いますので宜しくお願いします。何しろ、このシリーズを始めてすでに151回目になり、12年半を経過しました。我ながら、これほど長期間に渡りよくも書き続けられたことと感じますが、今後とも佐治天文台を宜しくご支援いただきたいものとお願いします。
 さて今回は、日本の各地にある多くの民間天文台の歴史と、天文アマチュアの活躍に目を向けようと思います。限られた範囲に過ぎませんが歴史を振り返るのも無意味ではないと考えた末の勝手な判断とお許し下さい。
 私が現在住んでいるのは、岡山県倉敷市玉島。同じ倉敷市内には、民間の天文台としては日本最初の施設、財団法人倉敷天文台があります。1926(大正15)年に、倉敷紡績の役員であった原澄治氏が私財を投じて設立した施設です。主要な機材は32cm反射望遠鏡で、イギリスのカルヴァー社によって製作されたものでした。私の青春時代で終戦間もなくのころ、本田実氏が天文台主事として観測研究に従事しておられ、開設当初からのスライディングルーフの観測室(現在は国登録の有形文化財)に入ると、室内には屋根の開閉のためのハンドルがあり、そのハンドルを回すと屋根が東西に滑り降りるような仕組みに作られていて大きく開く天空を32cmの望遠鏡が見上げるのでした。32cm反射望遠鏡は、イギリスで使用されることを前提に設計・製作されていたため、北極を指すべき極軸が北緯52度に設定されていて、望遠鏡を設置する基礎のコンクリートが傾斜されて倉敷の緯度に合わせるという工夫が施されていました。ニュートン式の反射望遠鏡では、見る(観測する)方向によって接眼部が意外な方向に向きます。この不便さを解消するため、副鏡を含む鏡筒の先端部が歯車で回転するような仕組みに作られていたのです。この望遠鏡で見せてもらった天体の美しさを現在でも忘れることができません。そして、この32cm反射望遠鏡も、今はその役割を終え同じ敷地内にある高さ約5mの白いドーム、原澄治・本田実記念館に展示されているのです。


日本の天文アマチュアの活躍(T)彗星観測

 倉敷天文台と言えば、新彗星発見で第一人者と讃えられた本田実氏を忘れることはできません。現在の新彗星の発見は主に全天をサーベイしているプロの天文学者によってなされていますが、それまでは殆どの新彗星発見はアマチュアの人たちによる眼視観測によって実施されていました。日本で初めて彗星を発見したのは井上四郎氏だろうと言われていて、井上氏は1902年10月と1903年7月にそれぞれ彗星を発見しましたが、残念ながら世界最初ではありませんでした。続いて、1919年には佐々木哲夫氏が発見していますが、この彗星は既知の彗星の回帰でした。その後、多くの観測者が彗星発見に挑戦しましたが成果が上がらないのが実状でした。1930年代になるまで、我が国では彗星に関する書物は一冊も出版されていませんでした。これを憂いた神田茂氏(1894から1974)が『彗星』を著して、彗星に関する世間の関心を呼び起こす切っ掛けを作りました。さらに、神田氏はこの他に、『彗星と流星』、『彗星の話』を著し、そのうちの『彗星の話』に、啓発されたのが他ならぬ本田実氏だったのです。鳥取県八頭郡八東町に生まれた本田氏は、生家の農業を手伝う傍ら、新彗星の発見を希求し、やがて生涯に12個の新彗星を発見していますが、その総てを望遠鏡による肉眼観測で果たしているのです。この本田氏の発見に刺激されたのが高知に住む関勉氏、さらに当時浜松在住の池谷薫氏でした。この池谷氏と関氏によって発見された池谷・関彗星が太陽に非常に接近し、その後長大な尾を見せるようになると、日本での彗星発見の機運が急上昇し、ついに「彗星王国日本」とまで言われるようになったのでした。日本人が新彗星の発見を殆ど独占するまでになった頃のことです。私はある国際会議に出席していました。その会場で、参加者の1人から「日本人の活躍の背景は?」と、質問されたのでした。私は、日本人の好奇心の強さや勤勉さとともに、憲法第9条があることを話したのでした。質問者は、好奇心や勤勉さは理解できるが、何故憲法第9条かと不審に感じたのでしょう。そこで、憲法第9条に明記されているように「戦争放棄」がもたらす兵役の義務からの解放が、青年時代の背景に大きく関係していると、応えたのでした。聞いてみると、多くの国では20歳前後から数年間を兵役に就くことが義務とさられているのでした。こうして、長い間「彗星王国日本」の名誉が保たれ続けたのでした。新彗星発見やその他にも活躍しているオーストラリアのマック・ノート氏は、本田氏の活躍に強く啓発され彗星観測に参入したそうです。



2010年1月の星空

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2010年1月の星空です
2010年は、1日の部分月食でスタートし、15日の部分日食、
そして月末の火星接近と続きます。今年もいろいろな
天文現象がありますので、星空の話題に注意


次回も、お楽しみに

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