天文セミナー 第116回

『オリオン』『小惑星』



オリオン

 冬の夜空を飾るのは、何と言ってもオリオンでしょう。腰にまつわる3つの星、三ツ星を挟んで南北にベテルギュースとリゲルの1等星を配した姿は王者に相応しいと思いませんか。そして、腰に差した短剣に当るのがオリオン星雲として知られるM42ガス星雲。この星雲は、星の故郷としても知られる星の誕生の現場です。星の誕生の現場だと言うことは、年代の違う星がその辺りにも輝いていることになります。数十年前のことです。当時の中学校で使用していた理科の教科書に天体を学ぶ項目があり、幾つかの写真が掲載されていて、学習の便が図られていました。ところが、ここで使用されている写真が、当時の世界最大の望遠鏡で撮影された写真でした。この教科書を使用する学生や生徒は、望遠鏡を使えば当然その写真と同じように見えると思っていました。あるとき、東京天文台の大口径望遠鏡で、小学生にオリオン星雲を見せたところ「おれの、図鑑の方が良いャ」との声を発してくれたのでした。この言葉に、私は大きな衝撃を受けました。実体験の重要性を改めて思い知らされたのです。このとき以降、望遠鏡で星を見る前には必ず肉眼で見て、その後で双眼鏡、さらに望遠鏡へと順序立てて見せることを心がけたのです。そして、ちょうど中学校で使用する理科の教科書の執筆を頼まれていたのを幸いに、小型カメラで撮影した星野写真を教科書に使用することを提言しました。これが採用され、実際に使われた写真はオリオン座。やっとカラー写真が天体の撮影に耐えられる程度に成長してきた頃でした。カラー写真で見る色とりどりの星たちの輝き。これ以降、星の色によってその星の年齢や、星の温度などについて学べるようになったのでした。この写真を延長して作ろうと考えたのが、当時日本で製作された大口径の特殊望遠鏡。明るい光学系が自慢でした。この望遠鏡を使い、サイズの大きいカラー写真を撮影して、教科書などに使いたいと考えたのでした。メーカーの協力を得てこの考えが実現し、教科書をはじめ、多くの印刷物に国産のカラーによる天体写真が使われるようになったのでした。この写真のコピーが佐治天文台の2階に大きなパネルに入れられて飾られています。


小惑星

 先月は、冥王星と言うタイトルで惑星の新しい分類と、ホルストの組曲「惑星」にまつわるお話でした。今月は、そのホルストの惑星に「冥王星」が加えられ、日本でCDが発売されたのが、偶然にも新しい惑星の分類とほとんど同時で、冥王星の行く末が気がかりになった事件の続きです。実は、そのCDには冥王星ばかりではなく小惑星という名前の曲がセットとして4曲が付けられています。先ず、カイヤ・サーリアホ作曲の小惑星4179・トータチス。これは言うまでもなく(4179)番に登録されている特異小惑星トータチスのこと。1989年1月4日にフランスのカウソール天文台で発見され、ケルトやゴールの神話の神にちなんで付けられた名前。発見直後から、その特異な軌道から地球に接近し2004年9月に地球に衝突する、と大きな話題になりました。日本でも例外ではなく、多くの報道関係者が当時私の勤務していた国立天文台に取材に訪れました。そして、外電を根拠に何とかして地球に衝突するという証言を引き出そうとしたのです。そこで、私たちは観測から得られた幾つかの精度の高いデータを元に詳しく解析しました。その結果、確かに地球に非常に接近はしますが衝突はしない、との結論を導きました。この計算結果を根拠に、このトータチスは地球とは衝突しません、と報道関係者に告げたのでした。このときの計算結果から、発見当初の1988年12月26日には0.1169天文単位=1749万kmにまで接近していたことが判明、そして2004年9月29日には0.01036天文単位=155万kmにまで接近することが知られたのです。こうして、トータチス騒ぎは決着したのでした。このような軌道を持つ小惑星のことを地球接近型の特異小惑星と呼び、現在では地球のすぐそばを通り過ぎていくようなものも多数発見されていて、その数はさらに増加しています。さて、トータチスという曲は、小惑星の成り立ちが多くの衝突の結果だということから、動きを反復つつも同調しないように考えられているそうです。ホルストの「惑星」が作られておよそ90年、そしてその惑星に「冥王星」と「小惑星」が加わって音楽の世界にもついに「天上の音楽」が演奏され始めたのを感じるのでした。



2007年2月の星空

(ここをクリックすると大きな画像になります)
2007年2月の星空です。

冬の星たちでにぎやかになりました。
オリオン座の見えているときが
星座を覚えるチャンスです。

天文カレンダー 惑星たち
2日: 満月○
月の近くに土星が見える(深夜〜未明)
3日 節分
4日 立春(太陽黄経315°)
7日: この頃、水星が夕方西の空低くに見える
10日: 下弦(半月)
11日: 建国記念の日
18日: 新月●
19日: 雨水(太陽黄経330°)
 夕方西空、月の近くに金星が見える(〜20日)
24日: 上弦(半月)
水星: 8日が東方最大離角。日没後の西の空低くに見ることができます。
金星: 夕方の西の空に見ることができます。10日前後は水星も近くに見えます。
火星: 午前5時過ぎに昇ってきます。観望には不適です。
木星: さそり座のあたりにあり、明け方に見ることができます。
土星: しし座のレグルスの近くで輝いています。そろそろ観望に適した時期になります。

次回も、お楽しみに

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